2021年5月25日火曜日

水道民営化で住民が搾取された具体的な手順

水道民営化について、「命の水で企業が利益をあげるなんて言語道断!」という批判が多いです。

海外事例で良くある、企業が利用者を搾取し、収益を上げてきた方法を以下に説明します。

「1.嘘をついて受注」→「2.目立ちにくい費用削減・手抜き」→「3.契約変更や法廷闘争でゴネ得」

以下、個別に説明してみます。


1.まずは嘘をついてでも業務受注

当たり前のことですが、民間企業としてはまず業務受注が必須です。

海外では価格点だけで勝負が決まることも多かったため、実際には達成できない投資計画と低料金を提示し、業務受注が優先される事例が頻出しました。1997年のマニラが良い事例で、東西地区でそれぞれ開始時の26%と57%といった異常に低い料金が提示され、受注者が決定し、その後投資不足によりサービスが悪化しました。

国内のコンセッション事例を見ると、競争入札の評価は、技術点8割、価格点2割といった構成が多いです(宮城県の事業も同様の配点)。このため、金額よりも技術的提案や運営方法(安全性)が重視されていますが、ここでもそもそも達成しないつもりで盛った計画を提出することは可能です。


2.利用者が気付きづらい費用削減と手抜き

さて、事業者は綺麗に装飾した応札書を出して、首尾よく30年も続く業務を受注しました。ここで利潤の拡大を目指しますが、水道事業でどうしたら直接的に利益を上がられるでしょうか?

1) 期待できない収入増加

普通考えるのは収入増加ですね。空港だとか道路のコンセッション事例では民間の知恵により需要増が期待されています。LCCの誘致、地域振興、イベント促進、空港やPAでのテナント事業改善等々。しかし、水道で消費量増加は難しいですし、浄水場の土地などを利用した付帯事業実施の可能性も低いです。このため収入増加は期待できません。

2) 利用者が気付きにくい費用の削減

となると、分かりやすく達成できることは費用削減です。ではどの費用を削ったら、利益が確保しやすいのでしょうか。懸念されるのは以下の2点です。

・配管施設投資の削減:水道事業で最も大きい費用は、配水に関する費用(配管工事、配管の維持管理)です(東京都の事例参照)。この費用を先延ばしすると支出が大幅に抑えられます。全国でも配管事故は多くないので、当初決められた更新工事を実施しなくても、5~10年といった期間で目に見えてサービスが低下することは無いでしょう。

・災害時の安全対策:災害時の安全対策も費用が削減できそうです。そもそも大規模な洪水や地震は10~20年の発生確率なので、運が良ければ運営期間中(30年)に災害は発生しません。万一災害が起こっても、契約条件では天災被害の修復費用は公が負担する決まりです。このため、民間企業としては、最低限の予防支出だけで済ませることも狙いとなります。


(水道事業では人件費や浄水費用の割合が大きくないため、無理な雇用者減や浄水水質の悪化は起こらないと推測しています)


3.契約変更または法廷闘争でゴネ得

短期的に影響の少ない部分から経費削減していますが、さすがに運営開始から10年ほど経つと、費用削減や手抜きが発注元(県・市)にばれます。しかし発注元は即座に業務停止を命令することはできません。なぜなら、水道は生活必需品であり、サービス停止できないためです。発注元はまず企業に業務改善を指示しますが、企業が確信犯であった場合、色々と言い訳をし、逆に発注者に契約条件の緩和(目標値下落)を提案します。

発注元が契約変更に同意すれば、料金値上げや投資削減などが認められ、事業の収益性が上がり、企業の勝利です。他方、変更が認められない場合でも、何年もかかる法廷闘争に持ち込み、有利な判決が獲得できれば、企業は同じく収益性を確保することができます。

交渉時に、海外事例で企業が選択した戦略は以下です。

・高い政治力・法務力を発揮:政治的な圧力をかける、有利な情報をメディアで流す、強い弁護士を雇用する、といった方法で、有利な判決獲得を目指します。過去の事例研究(要因分析)では、汚職の多い国の方が、コンセッションの契約変更が成功したと分析されています。

・情報はできるだけ非開示:契約書で規定されていた、技術・財務情報を開示せず、第3者が客観的に評価できない状況とします。







上記、学術的には「Low Balling」と呼ばれる、低価格入札から再交渉に持ち込んで利益を獲得する一般的な手順です。

日本の企業はそんなに悪いことをしないとの意見もありそうですが、企業側が意図しなくても、受注競争激化などの理由で、結果的に上と同様の手順で利用者の搾取が起こる可能性は残ります。

「どう規制して行くことが最適か」といった課題は別の機会で記載したく・・・

2021年5月17日月曜日

(3)仙台空港のコンセッション(2016年)

空港分野はコンセッション事業の事例が多く、2019年末時点で17空港が実施されています(北海道のバンドリングされた空港含む)。

ここでは2016年に運営が開始された、仙台空港のコンセッションについて概要を説明します。

仙台空港は比較的収益性が高く、早い時期に事業が始まり、SPCの選定は利用者増加や地域発展の視点が重視されました。直近ではCOVID-19の影響も受けており、その場合の対応や国との損失補填の方法など、別の分野でも参考になりそうです。

本事業の主な特徴は以下の通りです。

(1)航空系事業(赤字)と非航空系事業(黒字)を合わせて収益化
(2)落札者選定は対価金額よりも提案内容重視
(3)不可抗力リスクは国が負担







経緯

2014年:仙台空港の実施方針公表、特定事業の選定、募集要項の公表
2015年:第一次審査書類提出・評価、競争的対話、第二次審査書類提出、優先交渉権者選定
2016年:ビル施設等事業開始、滑走路等の維持管理、着陸料の収受等事業引継ぎ


(1)航空系事業(赤字)と非航空系事業(黒字)を合わせて収益化

空港事業は、航空系事業(滑走路、エプロンなどの管理)と非航空系事業(ターミナルビル、駐車場など)に分かれ、別々に運営されてきました。資料1によると、仙台空港のEBITAは、前者がー4.5億円、後者が+11.5億円でした(2014年)。

コンセッション事業ではこれらを全てをSPCが運営・管理し、全体で黒字化されます。また着陸料などの金額を調整する権利も与えられ、全体として収益性を最適化することができます。料金の最適化により、「着陸料の引き下げ→路線数増加→収益性増」といったサイクルが期待できるとのこと。一方、需要リスクはSPCが負うことになります。

運営開始後の利用者数ですが、2016年316万人、17年343万人、18年369万人、19年376万人と漸増しており、当初の目的は達成されている様です。

なおコンセッションの期間は30年間とされ、SPCの希望により、1回限りの追加30年以内の延長オプションが認められています。

水道事業と比べると、SPCの工夫(LCC誘致、イベント実施等)により、収益拡大できる点が空港分野コンセッションの魅力と感じます。











(2)落札者選定は対価金額よりも提案内容重視

運営会社の選定は、2段階に分けて実施されました。

第一次審査は三菱商事、東京急行電鉄、三菱地所、イオンモールを代表企業とする4つの企業グループが提案し審査を通過。第二次審査はを三菱商事を代表企業とするグループを除く3グループが提案。

最終的な審査基準は200点満点で、運営権対価はそのうち24点(12%)でした。それ以外の得点は、大きい項目から空港活性化(35.5%)、事業継続・実施体制(16%)、設備投資計画(12%)、実施計画(8%)、安全性(7.5%)、全体事業方針(5%)、職員の扱い(4%)とされています。従い、国の受け取り金額ではなく、地域活性化や実施体制が重視された審査となっており、結果的に東京急行電鉄グループが選定されました。

判断基準を見ても、費用削減よりも利用者増加・地域発展が目的とされています。


(3)不可抗力リスクは国が負担

事業のリスク配分ですが、需要リスクを含む基本的な事業・運営のリスクはSPCが負います。それ以外の、不可抗力リスク、特定法令等変更リスクなどは国が負うこととされています。

空港分野の災害事故ですが、2018年に関西空港で台風21号により橋脚が破壊される事故が発生し、利用者に大きな影響がありました。

また2020年から21年にかけて、航空業界はCOVID-19の影響を強く受けており、仙台空港の2020年の利用者数は、411万人(計画)から121万人(実績)に大幅に減少しています。
これら災害による損失は国が負担することが原則となっており、その手続きや対応方法について、公平な判断が重要です。

空港分野の事業は、転載の影響を大きく受けており、災害時の対応方法、国からの損失補填の判断基準など、今後教訓が多く得られるのではないかと思います。






参考リンク
仙台空港特定運営事業(国土交通省)
資料1:コンセッション方式を活用した空港事業の民営化(三井住友トラスト基礎研究所、2016年)