2021年3月29日月曜日

(1)愛知県道路公社の道路コンセッション(2016年)

ここでは2016年に開始された、愛知の道路コンセッションの概要をとりまとめます。

国内の道路分野のコンセッション事例はこの1件のみです。この事業は、需要リスクがうまく緩和され、また民間企業の知見で需要創出が実施されており、成功事例とされています。

主な特徴は以下のとおりです。

(1)バンドリングによる案件形成(規模の経済)
(2)
民間の需要リスク緩和と利益の配分(公社、民間、利用者)
(3)民間の知見を利用した
関連業務改善


経緯

2012年~:事業の検討開始。
2015年:実施方針公表、マーケットサウンディング、募集要項公表
2016年:優先交渉権者の選定。5グループが1次審査を通過し、そのうち2グループが2次審査に応札。選定は200点中、技術点120点、価格点80点(運営権対価1,377億円、試算額の+13%)で評価され、前田建設グループが選定された。その後、30年の実施契約締結。
2017~19年収入増による恩恵を、民間・道路公社で配分(2017年民間+6%、公社+8%、2018年民間+6%、公社+5%)
2020年:コロナの影響で大幅な収入減。当初の想定収入額-6%を下回る分を道路公社が民間に補填。

(1)バンドリングによる案件形成(規模の経済)

図 愛知道路コンセッションの対象8ルート

この事業は、図の8ルート(合計72.5km)をまとめて契約されました。バンドリング(Bundling)と呼ばれる、PPP事業ではよくある方式で、複数の事業をまとめることで規模の経済による効率化を目指しています。水道事業でも、コンセッション導入と併せて広域化(規模の経済)が実施される傾向が強いです。

応札の評価は、技術点(120点)と財務点(80点)が6:4となっており、事業改善と収益増の提案がバランスよく評価されている印象です。

(2)民間の需要リスク緩和と利益の配分(公社、民間、利用者)

道路のPPP事業では、需要リスクが最も収益性に影響を与えます。本事業では毎年の予測収入額の+ー6%分は民間がリスクを負い、+6%以上は公社へ収益分配、-6%以下は公社から収入が補填される方式でした。業務開始後、民間企業の努力(イベント実施、パーキングエリア改善等)により、需要が上回り、民間・公社で利益が配分されました。一方、2020年からはコロナ禍により需要が減り、公社から収入補填されるとの情報がありました。

この経緯を見ると、民間はリスク緩和により安定した運営を行うことができました。また、事業効率化・サービス改善の恩恵を公社、民間、利用者がバランスよく享受できており、適切な設定だったと思います。水道事業でも、事業効率化の恩恵を、公社(経費削減)、民間(利益獲得)、住民(水道料金低減)がバランスよく享受するスキーム設定が必須です。

(3)民間の知見を利用した関連業務改善

現地を見ていませんが、資料によると、民間企業(コンセッショネア)がサービスエリアのレストランやショップスペースの賃貸と維持管理を実施しています。更に、外資系ホテルやバイオガス事業の招致が計画されているとのことで、これらは民間の知見を活用した業務改善の試みとされています。水道事業では不随するビジネスが限られており、業務改善の効果も限定的です。

参考リンク
愛知道路コンセッション株式会社(コンセッショネア)

2021年3月27日土曜日

(6)ボリビア、ラパスの上下水道コンセッション

ここでは、私が2009年に研究で訪問した、ボリビア国の最大都市ラパス市の水道コンセッション事例を説明します。1997年から30年間のコンセッションが始まりましたが、契約終了を待たずに再公営化されました。再公営化された主な理由は政策転換です。

水道コンセッションの対象地域は標高3600m、事実上の首都ラパス市と近隣のエルアルト市であり、約150万人が生活する地域でした。

この事例では、以下の点で勉強になります。
(1)最大投資額(接続数)を提示した企業が落札
(2)事業規制・管理の難しさ
(3)コンセッションにより業務効率化したかどうかは不明

(写真:ラパス風景、標高4000m地点より









経緯

1997年以前:公共機関が水道サービス提供。給水率は高い(95%?)。平均使用量110リットル/日・人。漏水率34%。

1997年:フランスのSuez社資本であるAISA社が30年間のコンセッション契約を締結。入札基準は、2001年までにより多くのユーザー接続数増加を提案した企業を勝者とした(約71,000軒)。

2000年:同国第3の都市コチャバンバ市で水道民営化をめぐり水戦争が発生。低劣なサービスのままで急激な料金上昇が発生したことが主な原因とされた。4/4に17歳の男性が紛争中に射殺され、住民の抵抗が激化。政府は問題解決のため水道の再公営化を決定。

2002年~:ラパス市水道事業においても紛争による世論の影響を受け、2002年に計画されていた料金値上げが延期。

2007年~:10年間の民間運営後、住民不満の高まりもあり、新大統領であるエヴォ・モラレスが2007年にラパス市上下水道を再公営化することを決定。再公営化された主な理由は政府の政策転換。(政治リスクの顕在化)


(1)最大投資額(接続数)を提示した企業が落札
コンセッション契約先の決定条件は、「最低料金を提示した会社」となることが多かったのですが、ラパスは「最大接続数(投資額)」を提示した会社とされました。都市化による人口増が問題となっており、その対処がコンセッション契約の1番の目的とされていたためです。また、民間に任せるとお金持ち地域の開発が優先される恐れがあり、新規接続の半分は貧困地域と条件付けされていました。

(2)事業規制・管理の難しさ
事業期間の運営指標を細かく見ると、契約条件で厳しく規定された接続数は110万(1997)から160万(2008)と予定どおり増加しました。一方、大規模投資が必要である水源開発が進まず、1人あたり使用量は110リットル/日(1997)から80リットル/日(2008)に減少しました。このため水道サービスが改善したとは言い難いです。
企業からの視点では、予定されていた2002年の料金値上げが見送られ、大規模投資が難しいと判断したものと思います。

(3)業務効率化したかどうかは不明
コンセッション契約により、事業効率が改善したかどうかを分析しました。
収入額1.5~2.0億ボリビアーノに対し、明確な費用減としては、人件費-1.7%。それに対し、合計9.6%の追加費用がありました(コンサル費+2.2%、追加利子+2.5%、法人税+4.9%)。差分の7.9%以上の事業効率化があれば、民間運営がより効率性が高いと言えるのですが、投資単価などについてはデータが不十分であり判断できませんでした。

各種資料や業務指標を調べましたが、民間運営にしただけでサービスが改善するわけではなく、その規制・管理は難しいです。また民間運営は財務費用(利子、税金)が確実に増えるため、それを上回る業務効率化ができないと、逆に費用が増加し、業務効率性も悪化することも考えられ、国内でコンセッション事業を実施する場合にも重要な点です。

(写真:ラパスの街並、バス、親子)













2021年3月24日水曜日

(5)フィリピン、マニラ東西の上下水道コンセッション

ここでは1997年に開始したマニラの上下水道コンセッションの事例を説明します。この事例は、以下の点で学ぶことが多いです。

(1)敢えて東西に事業を分割した
(2)マニラッド社(西部)が1度破綻した
(3)いわゆるLow Balling(低価格入札と再交渉)が生じた

コンセッション契約の経緯

1997年以前:マニラ首都圏上下水道公社(MWSS)運営時は,対象地域の2/3のエリアに1日16時間しか給水できず

1997年:コンセッション開始。世銀・IFC主導で実施され、途上国としては大規模かつ先駆的な試み。競争性確保のため、事業地を東西に分け、別々に入札を実施。最も低価格の料金を入札した企業体が受注。落札金額は、既存料金のわずか26%(東地区、マニラウォーター)、57%(西地区、マニラッド)。

1997-2005年:1996-1997年のアジア経済危機などを経て、西地区のマニラッドが2001年より経営破たん状態。2005年に会社更生法を適用した後、運営会社交代のため再入札実施。

2005年~:料金値上げ、契約条件緩和により、両者の経営状態が改善。無収水率、下水道普及率等が改善。当初のLow Balling状況は解消され、以後順調な運営継続。東地区のマニラウォーターは2005年に株式上場を達成し、現在は他国事業にも参画。


(1)敢えて東西に事業を分割

マニラ上下水道コンセッションは、マニラ市の水道システムを東西に分けて別々の事業として開始されました。事業を2分することは、別のコンセッション事業でも実施されており、アルゼンチンのブエノスアイレス、フランスのパリ、インドネシアのジャカルタ等の例があります。分割の理由は、2つの事業の運営結果が比較され、切磋琢磨して事業が改善するためとされています。事業分割や入札方式についての詳しい経緯は、資料1に詳しく記載してあるので興味があれば読んでみてください。

2分するには追加的な工事(配水区域の断絶)、組織分割、契約・監査作業の倍増、といっコストがかかります。また比較による改善効果の可否も不明です。このため、個人的には敢えて実施しなくても良いのではないかと思っています。

(2)マニラッド社(西部)が経営破綻し、運営会社が交代

97年にコンセッションが開始されましたが、すぐにマニラッド社の経営が悪化します。マニラッド社は以下の理由で契約に不備があったと主張し、長い協議が続きました。
・アジア経済危機によりフィリピンペソの価値が急落(為替変動リスクが甚大)
・契約時の情報よりも、埋設管の老朽化が激しかった
・MWSSから引き継いだ負債の割合が多すぎた

主張には一理あるものの、より直接的な原因は、応札した水道料金が低すぎ、現実的でなかったことだと思います。規制機関であるMWSSとの協議に年月を要しましたが、結局2005年に経営破綻となり、出資者や融資元の金融機関が損失を被った後、会社は新しい出資者へ引き継がれました。これらの経緯は資料2に詳しいので興味があれば読んでください。

(3)いわゆるLow Balling(低価格入札と再交渉)が生じた

Low Ballingとは、民間企業の戦略の1つです。簡単に書くと、低価格入札においてまず低価格を提示し事業券を得たのち、事業を人質にとり、長期間に渡り規制機関と再交渉を行い契約条件を緩和し、収益性改善を狙う戦略です。

マニラッド社は経営破綻させましたが、そのまま事業運営ができなくなると社会生活に悪影響が大きいため、規制機関であるMWSSは料金値上げを容認しました。これにより、東西双方の経営状況は改善し、特に東部(マニラウォーター)は市場に上場し、また他国の事業参入なども実施しています。

以下は1997年から2011年の水道料金の推移。もともと10年間は料金改定しない契約で低価格を応札したが、結果的に1997年当時の料金(緑線)と比べて倍増した。

経営破綻があり、出資者などが損害を出していますが、結局は低価格入札とその後の再交渉による条件緩和が生じており、典型的なLow Ballingの戦略が実施され、企業の戦略はある程度成功したと言えます。なお最初の10年ほど期待していた投資が実施されなかったため、社会的な損害は大きいです。

上記、完結にまとめましたが、研究や仕事で関わり、また各種論文やレポートを読んで整理した内容です。マニラは日本からも近く、日本語でも色々な調査レポートが出ているため、興味があれば色々読んでみてください。

(写真:フィリピンのサリサリストア、マニラ西部の事業地域(shutterstock)





参考資料

1.The Manila Water Concession - A Key Government Official's Diary of the World's Largest Water Privatization (2000、世界銀行、事業形成から入札実施まで)

2.Maynilad on the Mend: Rebidding Process Infuses New Life to a Struggling Concessionaire (2009、アジア開発銀行、マニラッド社の破たんと再入札)

3. MWSS Regulatory Office (RO) 元の水道公社のMWSSが、コンセッション開始後、マニラの規制機関となっています。フィリピンでは自治体ごとに規制機関が形成されています。

2021年3月22日月曜日

(2)ボリビア水紛争の事実(コチャバンバを訪問して)

「ボリビアの水紛争」について聞いたことはありますか?

水紛争(Guerra del Agua)とは、南米ボリビアで2000年に発生した、水道民営化に反対する市民運動です。水道民営化を反対する書籍で良く取り上げられている事件なので、知っている方も多いのではないでしょうか。

ボリビアは南米に位置し、海のない内陸国です。首都のラパスは3000m以上に位置し、ウユニ塩湖などが観光地として有名です。人口は1151万人、1人当たりGDPは3321USDで、南米でも開発の遅れた途上国です。(ボリビア基礎情報、外務省

反対運動のストーリーとしては、欧米の水道民間会社が水道事業を民営化して、貧困国ボリビアの住民から莫大な利益を上げようとした。住民が国と企業に向けて反対運動を開始し、最終的に企業が撤退、水道は再公営化された。この経緯から、「水道民営化に反対する市民運動の成功例」とされています。しかし、本当に成功例と言ってよいのでしょうか?

1) ボリビア、コチャバンバ水紛争の経緯と問題点

水紛争の経緯は、以下のとおりです。民営化していたのは半年程度ということですね。

1998年:世界銀行が水道公社SEMAPAに融資決定。条件として民営化を示唆。
1999年10月:コンセッション契約により、SEMAPAからアグアス・デル・トゥナリ社に運営委託
2000年~:料金値上げが実施され、市民委員会、労働組合、学生団体等が民営化への反対運動を開始
2000年2-4月:反対運動が激化し、政府がデモ弾圧を行う中で学生が死亡。
2000年4月:政府は民営化をあきらめ再度公的機関による実施を決定。

Wikipediaにも詳しく整理されています→ Wikipedia コチャバンバ水紛争

コチャバンバ水道民営化の詳細を確認しましたが、契約に関する問題点は以下3点と認識しました。これらが改善していれば、水紛争は起こらなかったのではないかと思います。

・契約が競争入札となっておらず不透明だった(随意契約だった)
・料金値上げの必要性が周知できていなかった
・貧困地域で料金値上げに対する反対が強かった(フルコストリカバリーは難しく、政府支援が必要だった)

(写真:コチャバンバ市、SEMAPAの浄水場)


2) 現地で見た真実

私はイギリス大学院の修士論文研究の一環として、2009年に紛争が発生したコチャバンバ市に赴きました。仕事でスペイン語を覚えたので、水道を運営している水道公社SEMAPAの方々から直接話を伺いました。その時気づいたのは、コチャバンバで市民運動は成功したものの、水道事業開発の視点では失敗しているという事実です。

私が現地に赴いたときは、水紛争で市民が勝利してから9年後です。その時の水道事業のデータを以前のデータと比べましたが、水道事業はほとんど改善しておらず、住民は不便で不衛生な生活を強いられていました。

・給水率は6割程度
・給水地域でも1日数時間しか給水がない
・料金は以前のまま低額
・抜本的な水源開発(ミシクニ・プロジェクト)は未着手

私は水道のエンジニアなので、水道事業の改善が最大の目標です。その実施主体が、公社でも、民営化された会社でも関係ありません。コチャバンバ市民は水紛争という理念の対立に勝利したものの、その後10年経っても低劣な水道サービスから抜け出せないでいました。

適切な水道民営化が実施されれば施設投資が進んだのではないか。世銀や日本の安いODA融資を活用することはできなかったのか。といったことが悔やまれます。

私はこの経験から、イデオロギーの対立(民営化の可否)を争うのではなく、本質的な公共事業の実施内容や効果について議論すべきであるという考えを持ちました。

日本でも民営化(コンセッション)導入・反対の議論が起きていますが、結果的にコチャバンバと同じ状況になることを懸念しています。市民の反対によりコンセッション導入を阻止できたとしても、水道事業の課題に関して建設的な議論ができなければ、将来的にサービス水準低下、安全性悪化、料金値上げといった結果に繋がってしまい、市民にとっては敗北を意味します。

(写真:コチャバンバの教会、街並み(shutterstock)





2021年3月21日日曜日

(1)水道民営化に関する世界銀行の反省と方向転換


水道民営化は、1990年頃から世界銀行やIMFの提言に従って進められてきた経緯があります。ここでは過去の世界銀行の政策転換について記載してみます。

・コンセッション契約の黎明期(1990~)

私が大学を卒業して働き始めた1990年後半は、世界銀行やIMFが世界中でコンセッション契約導入を薦めていた時期です。民間が建設維持管理を実施すれば、事業が効率化し、料金が下がり、また建設に必要な資金も確保できると考えていたためです。フィリピンのマニラ(1997)やインドネシアのジャカルタ(1998)が第一弾といった時期ですね。知識の無い私は、単純に民間運営がこれからの潮流なのかな・・・と考えていました。

・失敗事例の続出(2000~)

しかし事業が始まってみると、ボリビアの水紛争が起こり(1999-2000)、世界中(アジア・中南米・アフリカ)で導入後の失敗例が散見されていきました。料金が想定していたほど下がらず、建設投資も計画どおり進まず、場所によっては契約破綻が発生しました。NGOは特に契約の透明性が低いことや、貧困層が裨益を受けていないことを理由に、水道民営化・コンセッションを強く批判しました。

・結果分析と方向転換(2010-)

これら事業の成果をを分析し、作成されたのが以下のレポートで、書評を作成しましたのでリンクを読んでください。

都市水道事業の官民連携の書評(和訳2012年、オリジナルは2009年)

世界の主要な水道PPP事例64件(うちコンセッション36件)の結果分析の結果、民間が関与する範囲の大きいコンセッションが必ずしも水道事業で最適なスキームではないとの明確な判断がされています。

仕事で色々な国のインフラ開発に携わっているため、世界銀行が電力分野などで引き続き民間参入を進めていることを目にします。しかしながら、水道事業に対し、民営化・コンセッションを無理に薦めることは無くなっています。

世銀の政策に限らず、先進国・途上国のメディアの論調でも、民間参入のデメリットについて知識が共有されつつあるイメージであり、国内でも同様の情報共有が必要と思います。

都市水道事業の官民連携(2012、世界銀行が民営化の失敗を認めたレポート)

都市水道事業の官民連携 (和訳版、世界銀行、フィリップマリン、2012)
Public-PrivatePartnershipsfor Urban WaterUtilities: A Review of Experiences inDeveloping Countries(英語オリジナル、2009)

お勧め度:★★★★★
分かりやすさ:★★★★☆
専門性 :★★★★☆

世界銀行やIMGは1990年代頃から、各国にコンセッション契約を薦めてきました。しかしながら、その後失敗事例が続出したため、2009年に上のレポートを公表しました。

世界の主要な水道PPP事業64件(うちコンセッション36件)の分析の結果、民間の役割の大きいコンセッションが必ずしも水道事業の最適なスキームではないと結論付けています。

主な分析結果は以下のとおりです。

「分析結果要約」

1)給水普及率の向上:コンセッション契約により給水人口は増加したが、当初の目標が達成していない事例も多い。公的資金を補てんした事業においてより成功している。アフェルマージュはコンセッションよりも概して良好な業績を示している。

2)給水サービスのレベル:一部例外はあるが、PPP導入により給水制限が大幅に減少し、給水サービスは向上した。

3)経営効率:損失水、料金徴収率、労働生産性の3指標は、どれも大幅に改善した。事業収入に直結するため、PPP導入は経営効率改善に最も効果がある。投資効率の改善については情報が入手できず評価不可。

4)料金水準:当初、低料金で開始した事業が失敗した事例が多い。時間の経過により料金値上げされた事例もあるが、その妥当性については評価不可。

文章が多いですが、和訳版も無料ですし、読了をお勧めします。

料金水準、接続数、無収水率などの技術・財務的な指標の推移が記録されていて分かりやすいです。私も、コンセッションの成否は、これら指標を、計画値と比較することで判断するべきと考えます。

2021年3月16日火曜日

「3. コンセッション契約の概要」 目次

ここではコンセッション事業の概要をとりまとめます。

既存の書籍等を見ても、実際の契約内容等について書かれているものが無く、以下の記事で説明したいと思います。

(1)コンセッション契約の概要

(2)一般的な契約条項とその記載内容

(3)水道公社と民間企業の役割分担

(4)料金決定の仕組

(5)中期計画の策定と再交渉の手続き

(6)入札方式とその傾向

(7)契約のために発生する費用

(8)コンセッション契約の課題と規制機関の重要性

(9)運営期間中に官民が対立した場合の解決方法


(9)運営期間中に官民が対立した場合の解決方法

コンセッション契約書には、発注している公的機関と、受注している民間企業が対立した場合の解決方法が記載されています。調停などの手続きと、公的機関またはコンセッショネアによる早期契約終了の条件について記載します。

これらの規定は、予測しない事態が生じたときに非常に重要となります。個別の契約内容について理解しましょう。

(1)調停・仲裁

大規模な工事契約にも同様の規定がありますが、規制機関とコンセッショネアが合意できない事項が発生した場合、まず両者により選定された調停人3名が仲裁し、判断を述べるといった手順が実施されます。さらに両者がこの判断に同意できなかった場合、(指定された国での)調停の手続きに入ります。調停手続きは、判定までに数年の時間、および多大な費用がかかることもあり、その間投資が停滞するといった副作用があるため、できるだけ避ける仕組みの構築が求められます。

(2)公的機関による契約の早期終了

コンセッショネアのサービスに重大な瑕疵(失敗)が発生した場合、公的機関へコンセッション費用が支払われなかった場合、およびコンセッショネアが破綻した場合等の条件において、規制機関は書面で通知し、それでもコンセッショネアによる改善が認められなかった場合、契約を終了させることができる。

(3)コンセッショネアによる契約の早期終了

法的リスクが発現した場合、公的機関が経済損失を補填することとされているが、その補てんが実施されない場合、または水道事業が強制的に再公営化された場合等において、コンセッショネアは書面にて通知後、一定期間後に契約を終了することができるとされている。なお、契約が終了した場合、規制機関は契約において民間が得る予定だった利益、資本、借入等を公的機関が補填することとなっている。


フィリピン国マニラの上下水道コンセッションでは経営危機となった際、(1)の国際調停にもちこまれ、数年間解決しないこととなりました。予測されない事態が起こった際、官民で協議してどう物事を決定・変更していくのかが課題と思います。

ボリビア国ラパス市事例では、大統領の政治的な意図で契約期間中に再公営化されました。このケースは(3)の規定により、多大な保証金を払う義務が生じて問題となっていました。(パリ市の様に、契約期限終了時に再公営化された場合はこの保証金は発生しません)

2021年3月14日日曜日

(8)コンセッション契約の課題と規制機関の重要性

ここではコンセッション事業における規制の重要性について説明します

まず、民間企業がコンセッション契約で事業運営する場合に生じやすい課題点を示します。その後、それを規制・管理するための方法を、他国の事例に基づいて説明します。

(1)コンセッション契約の問題点

以下はコンセッション契約で生じる代表的な課題です。どれも、結果的に投資額が計画を下回り、社会的な損失につながります。

モラルハザード:契約後、業務実施の過程で情報が民間企業に独占され(情報の非対称性と呼ばれる)、そのために規制機関は充分な管理が実施できず、民間企業の業務が怠慢化する(投資の遅延など)、モラルハザードが生じる恐れがあります。

ホールドアップ:業務が問題なく計画通りに実施された場合、その後規制機関による利益率の厳格化、報酬の低減といった締め付けがあることを予想し、民間企業が意図的に設備投資を控える戦略をホールドアップと呼びます。

低価格入札(low balling)と再交渉:過去発生件数が多い事例です。競争入札の基準を最低価格の水道料金を提示した企業としていた事例が多かったため、まず低い料金を入札し、権利を得たのちに契約を交わし、その後の運営期間中に目標が達成できない理由を並べ、再交渉を通じて条件(料金、投資額など)を緩和させていく戦略です。水道事業はモノポリー状態であり、生活に必要な水を人質に取られて交渉されるため、規制機関も厳しい管理ができないことが多く、問題になりました。


(2)規制の方法

上の様な状況が発生しないため、能力のある規制機関が適切な契約締結と業務管理をしていく必要があります。

企業は利益追求のために活動するため、社会的に正しい行動に経済的妥当性を持たせることが必要です。このため、契約書に罰則や報酬などの規定が盛り込まれ、運営期間においても企業が違反や手抜きをしていないかモニタリングしていく必要があります。私が他国の事例で確認したことのある、罰則や報酬を以下に記載します。

・給水停止に対する罰則

自然災害、緊急事態等を除く、コンセッショネアの瑕疵により給水停止が発生した場合、「給水停止中に消費されなかった水量」×「一定額」の罰金を支払う。

・水質悪化、施設故障に対する罰則

コンセッショネアの瑕疵で水道事業の水質低下、施設故障等が生じた場合、規制機関が独自の対応を実施でき、その費用をコンセッショネアが負担する。

・過少投資に対する罰則

コンセッショネアの実施すべき設備投資(配管敷設・更新・エリア拡張)が実施されない場合、公的機関が代わりに業務を実施でき、その費用を民間企業が負担する。

・漏水率改善・悪化に対する報酬・罰則

成果指標(例えば漏水量)が計画値より+3%以上改善された場合、一定額の料金値上げによる収入増を認める(報酬)。逆に計画された値より-3%以上悪化した場合、料金値下げにより収入を一定額減額する。 

・契約終了などの規定

業務が計画どおりに進まない場合、規制機関が企業に改善命令を出し、それでも満足されない場合、契約終了できるとの規定もあります。



(7)契約のために発生する費用

PPP(官民連携)に関し、「民間企業が公共サービスに参入すると費用が削減します・・・」と簡単に説明されることが多いですが、実は逆に増加する費用もあります。

ここではコンセッションを行うことで追加的に発生する、以下の費用について説明します。

(1)コンサルタント費用(計画、入札、選定)
(2)財務費用(利子、配当)
(3)税金(法人税)

コンセッションによる上記の費用増加よりも、民間企業の参入による費用減少が多ければ、全体として水道事業の費用が下がり、水道料金が下がることになります。

コンセッションが始まる際は、必ず費用が下がる計算になっていますが、「絵に書いた餅」とならないように、充分な分析やモニタリングが必要です。


(1)入札業務の費用(技術、財務、法務)

コンセッションが始まる際、入札公示→事前審査→企業選定といった手続きがあることは説明しました。これらの業務は、普通水道事業体から外部に発注され、主に技術・財務・法務の専門家が従事し、その費用がかかります。

技術コンサルが現在利用されている各種施設を確認し、仕様や利用状況、資産額等を整理します。また将来の投資・更新計画を策定します。会計事務所や財務コンサルが、事業の収益性や現在の運営との収支の差を計算します。また弁護士が契約書や入札図書の作成の確認を行います。

これら業務だけで数億円の規模になるため、コンセッションの事業規模が小規模では割に合わず、大規模な事業が中心となります。

(2)財務費用(利子、配当)

水道事業は装置産業であり、施設の建設と更新に大きな費用がかかります。水道公社であれば、建設資金は公営企業債などの財務費用が安い資金を調達できます。一方、コンセッションにより民間企業が資金調達する場合、各種金融機関からの融資と、出資者からの出資金で賄うことになります。

融資は利子がかかり、出資は配当の支払が必要です。各企業の融資と出資にかかる財務費用の平均値は、「加重平均資本コスト(WACC)」と呼ばれ、国内の上場企業のWACCは5-6%程度と言われています。

企業債であればほとんど利子がかからないので、この資金調達にかかる5-6%分の財務費用は、民間企業が資金調達する場合の追加的な費用となり、事業期間をとおしてみると大きな出費となります。


(3)税金(法人税)

民間企業は出資者に配当を出すことが求められており、当然事業で利益を上げる必要がありますが、配当支払いの前に法人税がかかります。このため、結果的に水道事業の利用者の払う水道料金の一部が、税金として奪われることになります。

(1)コンセッション契約の概要

図 コンセッション契約の業務とお金の流れ

コンセッション契約の作業とお金のフローを、上の図に整理してみました。

契約期間:

コンセッション契約は、既往の水道事業実施者と民間企業の間で、25年から30年の期間を対象として締結されます。長期となる理由は、施設の投資活動もコンセッショネアの役割とされており、その費用を回収に長期間の契約期間が必要とされているためです。

施設利用:

水道事業者が保有していた既往資産は。契約期間中民間企業に貸与され、サービス実施に活用されます。契約期間中は規制機関がサービス成果をモニタリングし、計画どおり実施されていない場合は民間企業への業務是正勧告や、罰則の適用等を実施します。

SPCとお金の流れ:

事業を実施する民間企業はコンセッショネアと呼ばれ、一般的に事業開始時に複数の企業が出資するSPC(特別目的会社)として組織されることが多いです。規制機関に対しては、定期的に事業成果を報告し、また過去の借入返済や規制業務費用に活用されるコンセッションフィー等と呼ばれる費用の支払を実施します。住民への上水道サービス提供は基本的にコンセッショネアが実施し、住民からの料金回収も行います。

SPCの資金調達方法:

コンセッショネアは既往施設の維持管理と新規施設の建設・維持管理を実施しますが、その資金は投資家からの出資、および金融機関からの融資で賄います。これら資金に対し、コンセッショネアは契約期間中の収入を元に、配当供与と借入返済を行っていきます。


更に、以下に一般的な水道コンセッション事業の契約概要を整理します。ここでは概要飲み示し、細かい点は別の場所で説明していきます。

        表 コンセッション契約の一般条件

コンセッショネアの義務料金徴収、施設維持管理、浄水場等の運転管理、新規エリアへのサービス拡張等投資、コンセッションフィーの支払い
契約期間25~30年程度
入札条件水道料金提案、またはきい投資約束した会社、その総合評価方式
投資行動の条件設定新規接続、新規水源開発、漏水対策等の投資目標を数値目標(建設数量または金額)で示す
運営指標水質条件、水圧、給水時間、給水率、NRW率、投資計画・金額、住民の満足度等の指標が規定される(目標の上下により、報酬・罰則設定も可能)
コンセッショネアの収入水道事業の全体収入(水道料金収入、接続費収入、下水道料金等)、そのうち、規定されたコンセッションフィーを規制(公的)機関に支払う
水道料金の改定方法毎年の改定は物価上昇率等を元に自動更新
5年毎に事業費用と収入を見直し、コンセッショネアの利益を上乗せして料金を決定する。
コンセッショネアの支払費用・サービスの運転・維持管理費用
・施設拡張のための投資費用(水源開発、配管敷設、配水池等の施設全て)
・財務費用(借入返済、利子)
・税金(法人税、消費税等)
・規制機関に支払うコンセッションフィー
・投資家への適切な利益配分(配当)

2021年3月12日金曜日

宮城県上工下水道事業のコンセッション候補者が決定

宮城県が募集していた、上水・工水・下水事業のコンセッション候補者が、3グループの競争を経て、メタウォーターグループに決定されたそうです。

Yahooニュース

宮城県の広報ページ

ざっと資料を読みましたが、概要は以下です。

・契約期間は20年(25年まで延長の可能性あり)

・料金改定は毎年の調整+5年ごとの定期改定(一般的)

・業務内容は浄水場、処理場の運転・管理・更新が主

・配管施設の管理・建設・更新は引き続き県が実施(配管投資のリスクを回避)

・応札の評価は多面的な以下11項目について点数付けして決定

1.全体事業方針(10点)、2.事業実施体制(11点)、3.収支計画・資金調達方法(9点)
4.水質管理(22点)、5.運転管理・保守点検 (22点)、6.改築・修繕等 (42点)
7.セルフモニタリング (8点) 、8.危機管理 (10点)、9.事業継続措置 (16点)
10.地域貢献 (10点)、11.運営権者提案額 (40点) ※(点数は200点満点)







以下、個人的な感想ですが・・・

良い点

・スキームについて、民間は浄水場や処理場の装置更新が主な業務であり、配管の建設・更新は県が実施するという立て付けで、配管投資に関連する危険性は低そう

・水質の常時チェックなども民間の強い部分であり、通常の運転の心配はなさそう

不明な点(今後の課題)

・災害時の対応については、各社の提案がどの程度機能するのか、県が実施する場合と比べてどっちが安全か、という点は不明

・応札した3グループの提案した報酬額が評価にほとんど反映されていません。県の評価基準は、「県の予想額以下を提案した場合満点」という設定であり3グループとも満点(40点)でした。低価格入札で勝者が決まり、後から手を抜いたり再交渉する戦略(モラルハザード)を阻止できる一方、民間報酬減→水道料金の提言といった利点は限定的となりました。

2021年3月11日木曜日

(6)入札方式とその傾向

ここでは水道コンセッション事業の入札方式について記載します。

「入札公示」→「事前審査」→「競争入札」

入札手続きですが、まず公的機関が入札実施を公示します。次に興味を示した会社に対しPre Qualification(事前審査)が実施され、経験や能力のない会社は排除されます。その後、応札が認められた企業グループ数社で、競争入札が実施されることが一般的です。

入札の判断基準ですが、分かりやすい以下の方法が選択されていました。

1)最小の水道料金価格を応札させる(投資額や目標値は決まっている)

2)最大の投資額を応札させる(料金水準は決まっている)

当然ながら、1)であれば料金低減が最終目標で、2)であれば投資拡充が契約の目標とされているわけです。

総合評価方式であれば、これらに加え、技術的な内容なども加味されます。技術点と価格点の配分なども重要ですね。


確認のため、世界銀行が作成している、世界各国のPPP事業の事例情報をとりまとめたPPIデータを参考にしてみましょう。

PPI (Private Participation in Infrastructure) data

上のサイトから、「Water Utility」の分野を選ぶと、2021年2月時点で482件ありました。その中で、Tender Criteriaの記載がある案件は合計110でした。内訳は以下のとおりです。

選定方法1. 料金水準(最小) 55件

選定方法2. 建設費または運営費用(最小)20件

選定方法3. 政府への支払額(最大)16件

選定方法4. 新規投資額(最大)7件

選定方法5. 政府の支払額(最小)4件

選定方法6. 政府から受領する補助金額(最小)4件

上の項目を整理すると・・・

(1)直接的な水道料金や建設費などの最小化(選定方法1.2.3.):91件

(2)政府へ支払い最大、または政府からの補助金最小(選定方法3.5.):20件

(3)投資額最大(選定方法4.のみ):7件

このように、直接的な料金や費用の低減を狙った場合(1)が最も多く、続いて政府支援の最小化(2)、最後に建設投資の最大化(3)となっています。

1つの数値だけで勝ち負けを判断することはシンプルで分かりやすいのですが、それによる過去の失敗事例もあり、現在は技術的な面も考慮する総合入札方式が多くなっている様子です。

失敗の事例などは別の章で・・・

2021年3月10日水曜日

(5)中期計画の策定と再交渉の手続き

図 中期計画作成・料金改定の審査プロセス

ここではおよそ5年ごとに、料金改定と併せて実施される、中期計画策定と再交渉の手続きを示します。

コンセッション契約当初、民間企業は契約期間である25年~30年におよぶ事業計画(技術、財務)を提出し、それに基づいて企業の収益や、水道料金が決まります。しかしながら、業務をする中で、想定していた各種数値や予測値が大なり小なり変わってくるため、一定期間ごとに計画の修正が必要となります。

その手続きである「料金改定」ですが、通常は約5年ごとに設定されており、コンセッショネア(民間企業)が技術・財務双方の企業計画を立案し、規制機関(公的機関)がその計画の審査と修正、最終的な承認といった作業を行うことになります。

この承認プロセスは半年から1年といった時間がかかります。なお数度のやりとりで合意できない場合もあり、その時は契約書に記載されている調停や裁判といった、紛争解決手段がとられることになります。

規制機関が充分な能力を持たないと、民間企業の言いなりとなり、企業のみに事業の利益が奪われる結果となります。このため、能力をもった規制機関の存在が不可欠です


2021年3月9日火曜日

(4)料金決定の仕組

ここではコンセッション契約の料金決定の仕組みを説明します。

以前、以下の記事で国内の水道料金の決め方について記載しました。

(4)水道事業の収入

コンセッション契約が結ばれた場合ですが、普通は既にある料金設定はそのまま残ります。(日本では総合入札方式が採られる可能性が高いと思いますが、料金を入札の基準とする場合、応札された金額で始まります)

料金徴収は民間企業の役割となるため、民間企業が料金を受け取り、それをもとに維持管理と施設の建設・更新をしていくことになります。

また公的機関に支払うコンセッションフィーが決められている場合、料金収入からその分を捻出する必要があります。


コンセッション契約での料金決定の手順

コンセッション契約における料金改定手続きですが、過去に調査した海外事例では、主に毎年実施される「料金調整」と、一定期間毎に実施される「料金改定」の2つの仕組みで実施されるることが多いです。

1)料金調整:毎年 物価上昇分などを考慮し、毎年料金が若干修正される仕組み

2)料金改定:5年毎 長期的な視点に立ち、将来の投資計画や需要予測の変更を加味



ここのところ日本ではデフレが続いていますが、状況が変わり物価上昇が引き起こされた場合、民間企業の収益性確保のため、同じだけ料金も値上げされるべきです。毎年の「料金調整」として、各種指標をもとに計算し、料金の調整が実施されます。

事業運営が5年ほど経つと、将来の人口予測、給水計画、配管の漏水発生率なども変わってくる可能性が高く、それらの計画を反映させるためにより大規模な料金改定を行うことが普通です。

その場合、民間企業は5年、10年といった長い期間で事業計画を作り、それを規制機関・公的機関が精算する必要があります。投資計画や各種数値のチェックも必要であり、料金改定手続きは1年以上かかる場合もあります。

2021年3月7日日曜日

「2. 水道事業の経済性」目次

ここでは、水道事業とはどういったものか、どこにどれだけお金がかかっているのか、といった基本的な点を整理しました。

(1)水道事業の特徴、他の公共サービスとの違い

(2)水道事業の施設構成

(3)水道事業の費用構成

(4)水道事業の収入

(5)水道事業の成果

(6)水道事業のPPP方式の比較

(7)コンセッション契約によるメリット・デメリット

基本的な情報も多いですが、水道施設の特徴とコンセッションを関連して説明している資料は少ないので、一読してもらえると改めて気付かされる点もあると思います。



2021年3月6日土曜日

(3)水道事業の費用構成

ここでは水道事業の費用について、建設費に着目して説明します。例として東京都水道局の費用を見てみましょう。

令和元年の営業費用(損益計算書から)

水道事業にかかる毎年の費用を知るため、東京都の損益計算書の営業費用を見てみましょう。

・営業費用 3,041億円
- 減価償却費(平均化した建設費)763億円
- 施設別費用 1,792億円(原水費146億、浄水費267億、配水費1,175億、給水費204億)
- その他 486億円














図 東京都水道事業の営業費内訳(単位:億円、令和元年)

令和元年の営業費用は合計で3,041億円、建設費を表す減価償却費は763億円(営業費用の約25%)でした。施設別に計上された費用(人件費、薬品費、電力費など)は、配管施設の維持管理費用である配水費が1,175億円と高額でした

全部で1360万人に給水しているため、人口1人あたりで見ると、営業費用は22,400円/年であり、基本的に水道料金でこの費用が賄われます。そのうち、減価償却費(建設費)は5,600円/年となりました。

令和元年の固定資産(貸借対照表から)

水道施設の資産額を知るために、東京都の貸借対照表の有形固定資産を見てみましょう。

・有形固定資産 2.44兆円
・うち構築物(水道施設ですね) 1.58兆円 

令和元年当時の水道施設、建物、土地等を含む有形固定資産は合計で2.44兆円、そのうち水道施設を示す構造物は1.58兆円でした。数字が大きくて想像が難しいですが、1人あたりで計算すると、有形固定資産額は179,300円、構造物資産額は115,900円となります。(1人当たりの有形固定資産額は、10-20万円程度となることが多い)


水道事業の費用の特徴

上の資料でも確認できた、水道事業の費用の特徴を以下に整理します。

a)大規模な設備投資が必要

水道事業の施設は高額の設備投資が必要となります。東京都の場合、水道施設の資産額は1人当たり約12万円ですので、5人家族であれば60万円の施設となります。水道施設は、水源からの取水、浄化、送配水、配水管網での各戸給水と大規模で一貫したシステムを構築する必要があり、昔は公共事業として施設建設が進められたわけですね。

コンセッション契約が実施された後、同規模の施設建設は難しく、競合企業は現れないため、契約した企業がその地域の独占企業となるわけです。

b)運営時にも連続的な配管投資が必要

最初に大規模投資が必要なことはわかってもらえたと思いますが、さらに重要なことは、建設費用が継続的にかかることです。理由は、建設費の約6割を配管工事費が占めており、30-40年といったスパンで入れ替え・更新が必要となるためです。

「配管費用が6割」の根拠ですが、厚生省の資料1によると、過去の施設建設費の内訳は、取水施設(貯水・取水・導水)が15.5%、浄水施設が12.5%、送水施設が11.2%、配水施設が50.8%、その他(建物等)が10.0%です。主に配管施設からなる送水施設と排水施設の割合が約6割です。













図 過去の施設工事費用内訳(合計39.7兆円、平成17年時点)

日本のPFI事業の多い、高速道路、廃棄物発電、図書館といった分野では、最初に施設を建設してしまうと、追加的な投資はそれほど必要とされません。一方、水道コンセッションでは、営業費用の2割近くにもなる、配管への投資が継続的に必要となり、その管理が難しいために失敗が多いと言われています。

参考資料:
東京都水道局資料(令和元年) 水道の財政損益計算書貸借対照表

2021年3月5日金曜日

(7)コンセッション契約によるメリット・デメリット

コンセッション契約により民間企業が水道事業運営をする場合の、メリットとデメリットを以下にまとめました。ここでは一般的な項目を挙げました。

(1)水道事業の効率化、(2)事業の透明性向上

(1)利益優先によるサービス悪化、(2)将来的な料金値上げ


〇メリット1:水道事業の効率化

市町村や水道公社による運営ですが、経済性よりも安全性を重視し、不効率な運営がされているという批判があります。また中小規模の事業では人材・知識不足により、最新技術を活かした運営ができません。

民間企業が計画・運営することで業務を適正化したり、最新の技術を導入し、事業運営が効率化されると期待されています。なお効率化により生じた時間やお金は、顧客満足度向上、安全性向上、料金値下げ等に活用されることが理想です。

〇メリット2:事業の透明性向上

入札によりコンセッション契約が実施され、より良い提案をした企業が勝者となります。その際、今後の計画や料金等が比較され選択されます。また契約期間中、運営企業は定期的な事業報告(技術・財務指標)が求められ、これにより市民にとって事業の透明性が向上すると考えられます。

×デメリット1:利益優先によるサービス悪化

水道事業は参入費用が高いことから、交通機関や携帯電話などのインフラと異なり、競合となる会社が現れず、モノポリー(独占)状態となります。この状態を、専門用語では自然独占(Narutal Monopoly)と呼びます。

市場に競争が発生しないため、民間企業がコンセッション契約を勝ち取った後、利益を増やすために、投資を抑えたり顧客対応を怠ることで、サービス水準や安全性が悪化する恐れがあります。

発注者や規制機関が、罰則等を課して事業実施をコントロールすることが理想ですが、事業期間も長く、必ずしも計画どおり行くとは言えません。

×デメリット2:将来的な料金値上げ

民間企業が運営を行うことで、追加的な費用がかかることがあります。例を挙げると、入札・契約のための調査・準備費用、資金調達費の増加、投資家への配当支払発生などです。

民間の運営により業務効率化が図られたとしても、その改善効果よりも費用増加の悪影響が上回った場合、収支が悪化し、結果的に水道料金が値上げされる恐れがあります。


2021年3月1日月曜日

(6)水道事業のPPP方式の比較


ここでは、水道事業に適用される主なPPPスキームの概要と各スキームの役割分担を説明します。PPPスキームの呼び方・定義・条件等は、国によって異なることも多いですが、世界銀行の定義に従いました。また、比較的実施例の多い、新規水源開発(バルクウォーターサプライ)などの一部新設事業は除いて記載します。

1.4つのスキームの概要

スキームは、(1)完全民営化、(2)コンセッション契約、(3)アフェルマージュ(リース)契約、(4)マネジメント契約、の4種類に分類しました。下表に概要を示します。

この表では、上の欄がより民間参入の度合いが高く、下になるにつれ公的機関の役割が増えています。契約期間は民間参画度合いが高いほど、長期となっています。

※このHPのタイトルは通称の「民営化」としましたが、水道法改正により適用されるスキームは厳密には「コンセッション」となるので、その違いも確認してみてください。

表 水道事業に適用される一般的なPPPスキーム

PPP方式資産保有者維持管理期間における施設投資ファイナンス運転・維持管理O&M)事業収入一般的な契約期間
(1) 完全民営化民間民間民間民間民間による料金徴収制限無し
(2)  コンセッション契約公共機関/民間(新設部分のみ)民間民間民間民間による料金徴収約25 - 30年
(3)  アフェルマージュ(リース)契約公共機関/民間(更新部分のみ)公共機関公共機関民間民間による料金徴収約10 - 15年
(4)  マネジメント契約公共機関公共機関公共機関民間官からのサービス料支払約3 - 5年

注:一般的な条件で整理しましたが、スキームの定義は分野や国で異なることが多く、すべてが上の条件に合致するわけではありません

2.スキームごとの説明

(1)完全民営化」

各種計画、施設投資、ファイナンス、維持管理、料金回収を含む、全ての業務が無期限で民間企業の責任となります。資産も民間会社が保有します。本方式はイギリスで採用され、全国に有った水道事業は約20の会社に集約されています。

(2)コンセッション契約」

事業体と民間企業が約25~30年に渡る契約を結び、民間が施設投資、ファイナンス、維持管理、料金徴収業務といった幅広い業務を実施しています。公的機関は資産を保有し、民間企業の運営状況を管理、規制する役割を持ります。契約期間が長く、民間企業はその間の投資活動も実施することとされています。

(3)アフェルマージュ(リース)契約

10~15年に渡り、事業体が民間企業に運転維持管理を委託する形式です。大規模な施設投資の資金調達と実施は公的機関の義務となっており、既存施設の補修や維持管理、料金徴収のみ民間企業が実施します。公的機関が投資を実施するため、国際機関等からの利子の低い借款を受け入れ、低い財務費用で投資を実施できる利点があります。一方、機関の実施能力が低い場合、投資が遅延する恐れも有ります。

(4)マネジメント契約」

浄水場やポンプ場等の限られた施設の維持管理を、3~5年契約で民間企業に委託する形式です。契約自体は他のスキームと比べて簡便であり、日本国内でも3者委託等として実施されている。