2021年2月24日水曜日

(2)水道事業の施設構成

 ここでは水道施設の施設構成について説明します。

以下、札幌市水道局さんの画像をお借りしました。

(出展:札幌市水道局


水道事業の施設は大まかに取水施設、浄水施設、送水施設、配水施設に分けられます。

(技術的な話は省略し、概要だけ述べます)

1) 取水施設

まず、サービス地区付近のダム、河川、井戸などの水源から、「取水施設」により水を取り、配管を通って、浄水処理のために浄水施設に送られます。

2) 浄水施設

水の浄水方法は多様ですが、一般的には大規模かつ迅速に処理ができる急速ろ過方式が採用されています。沈殿→ろ過→消毒の一連の処理により、各国(またはWHO)で定められたの水質基準を満たす処理水が作られます。

急速ろ過処理に代わり、需要量が少ない場合は緩速ろ過、海水淡水化等の場合は逆浸透膜処理といった方式が原水の水質や経済性によって導入されます。その他に、よりおいしい水質を求めるためのオゾン消毒なども導入されています。

3) 送水施設

処理された水は,メイン配管,配水池,ポンプ場などから成る「送水施設」を通り、その後、最終消費者へ配るための「配水施設」に送られます。配水池は、水圧や給水時間を安定させるため、地域毎に設置されます。ポンプ場は重力のみで流下しない地区へ水を圧送するために用いられています。

4) 配水施設

配水施設は配水管網とメーターから成り、最終的に水は各家庭または工場等といった最終消費者へ運ばれます。

2021年2月22日月曜日

(4)水道事業の収入

ここでは水道事業の収入について説明します。
水道事業の主な収入は水道料金であり、その料金体系と、料金改定の仕組みを説明します。

1)料金体系

ここでは、一般的な水道料金体系を説明します。説明する内容は以下のとおりです。
a. 水道事業は独立採算のため安定した経営となっている
b. 料金は基本料金と従量料金からなる
c. 大消費者から小消費者(一般家庭)への補助が存在する
d. 住む町によって水道料金に差がある(国内で最大8倍)


a. 水道事業は独立採算制がとられ、経営は安定(外部からの補助金なし)

まず水道事業は地方公営企業法が適用され、基本的に独立採算となります。つまり、集めた料金収入で事業にかかる全ての建設費や維持管理費を賄っているということですね(総括原価方式と呼ばれます)。

簡単に書くと、毎年水道事業に1000億円かかり、5億㎥の水を販売している自治体がある場合、平均単価が200円/㎥なので、これと同じ収入となる料金水準(平均200円/㎥)を設定することになります。(実際は複数年での計算ですが)

各水道サービスの財務データは、総務省の以下サイトに掲示されており参考になります。

総務省地方公営企業年間(水道以外の分野も含みます)


b. 水道料金は基本料金と従量料金(逓増性)での計算が一般的

水道の料金体系ですが、東京都を例に説明してみますので以下リンクを確認してください。(下水道料金も一緒に徴収されますが、ここでは水道料金についてのみ説明)

料金は固定費の「基本料金」と、使用量によって変わる「従量料金」に分かれています。どちらも一般家庭を含む小消費者で安く、大消費者でより高く設定されています。

「基本料金」は固定費で、呼び径(各家への接続管の太さ)で費用が変わります。一般的な家庭では毎月1170円(呼び径20mm)かかります。

それに加え、「従量料金」として、0円/㎥から404円/㎥まで、使用量が増えるにつれてブロック毎に料金が上がります。この単価が上がっていく仕組みは、逓増(ていぞう)料金制と呼び、大消費者に節水を促す効果があります。

この表だけでは分かりづらいため、1~6人の家庭での水道料金と単価を計算してみました。(各世帯の水使用量は平成24年のデータを引用)

図 月当たりの水道料金と単価(東京都23区の一般家庭)図をクリックで拡大

計算により、各世帯の水道料金と単価は、以下のとおりとなりました。   
世帯人数    消費量    水道料金    単価
  • 1人    8㎥/月    1,236円/月    155円/㎥
  • 2人 16㎥/月    2,048円/月    128円/㎥
  • 3人 21㎥/月 2,723円/月    130円/㎥
  • 4人 25㎥/月 3,375円/月    135円/㎥
  • 5人 30㎥/月 4,190円/月    140円/㎥
  • 6人 34㎥/月 4,998円/月    147円/㎥
水道料金の単価ですが、普通の家庭であれば、おおよそ128-155円/㎥のレンジと判明しました(2021年2月時点)。面白いことに、1人世帯の単価(155円/㎥)が一番高くなり、2人世帯の単価(128円/㎥)が一番安くなりました。大した事無い金額ですが、同棲すると少し水道代が節約できるということですね。


c. 大消費者が家庭利用の費用を一部肩代わり(内部補助あり)

あまり知られていませんが、多くの国の水道事業で、工業・産業利用などの大消費者が、小消費者(家庭)の費用を一部負担しています。

日本でも、消費が大きいほど料金単価が高くなる逓増性の影響で、同様の状況となっています(例:201㎥/月以上で372円/㎥など)。

2020年の資料を見ると、東京都水道局の販売単価(総収入/総販売水量)はおよそ211円/㎥となっています。上の一般家庭の単価(128-155円/㎥)との差額である56-83円/㎥程度は大口消費者が肩代わりしていることになります(その他収入などは無視した場合)。


d. 各自治体で料金が異なり、格差がある(最大8倍)

a.で説明したとおり、水道事業は黒字になるように料金設定されます。ただ、これらの水道事業は普通各自治体で実施されており、それぞれの地域特性(水源、人口密集度など)により事業の経済性が異なるため、水道料金単価に差が発生します。月消費20㎥の条件で比べた場合、その差は8倍にもなるそうで(平成27年情報)、この改善を求める声もあります。

最大8倍も? 「水道料金」に地域差がある理由を日本水道協会に聞いてみた

「水道料金」ランキング1263事業体・完全版(ダイヤモンド)


2)料金改定の仕組み

水道料金ですが、一定期間ごとの見直しが行われます。見直し期間の目安ですが、厚生省の各種資料によると、3-5年ごとの料金改定を勧めている様です。

料金改定の際、今後の消費量、施設建設計画・費用、更新計画・費用などを再計算し、必要なレベルの料金水準が設定されています。


2021年2月18日木曜日

(1)水道事業の特徴、他の公共サービスとの違い

水道事業のコンセッションは、他分野と比較して失敗例が多いとされています。

その理由を知るために、水道事業の特徴・特殊性を以下3点に整理しました。

1.水は生活必需品
2.どの都市にも既に水道が存在する(既存施設を利用した事業となる)
3.配管の費用が高い(輸送費が高い)


1.水は生活必需品

安全な水が無いと人は1週間も生きることができません。このため水を利用することは人々の基本的な権利とされています。災害で電気やガスが無ければ不便ですが、命の危険は感じませんので、それらと比べても水道は非常に大切です。

このため、水道事業を民営化などで営利目的に利用されたり、過度に高額な料金を徴収されることに対する住民の反対は、他のインフラ事業と比べて強くなります。


2. どの都市にも既に水道が存在する(既存施設を活用した事業となる)

高速道路、都市鉄道、廃棄物処理、図書館など、色々な分野のPPP(官民連携)事業が実施されていますが、これらは新規施設が建設され、運営されることが普通です(専門的には"Green Field"事業と呼ばれる)。一方、水道事業は生活必需品なので、既にどの都市にも存在します。既にある水道事業を引き継いで、民営化・コンセッション契約とすることは、新規事業と比べるとリスクが高いです。(既存事業のPPPは、専門的には"Brown Field"事業と呼ばれる)

Brown Field事業が難しい理由ですが、中古マンションや中古車両を売買する場合と同じく、過去に建設された資産(浄水場、配管)を引き継ぐ場合、施設に不具合が生じるリスクがあります。また、昔から水道公社に勤務している方々の処遇も変わることになり、その処遇問題も発生します。


3.配管の費用が高い(輸送費が高い)

一般家庭には電気、携帯電話、水道といった様々な公共サービスが提供されていますが、これらと比べ、水道事業は原料費が安く輸送費が高いビジネスです。

水道事業の輸送費の主な費目は、配管施設の建設費です。水道施設は様々な施設で構成されますが、全体の建設費のうち、配管施設の建設費が占める割合が最も多く、約6割に達します。

水道は地下に敷設される配管を通して輸送され、配管敷設工事は道路掘削・舗装作業が必要であり、また30-40年経って老朽化したら更新も必要となり、これらが高い費用の理由です。

輸送費が高いと、25-30年にも及ぶコンセッション事業運営期間の支出管理が難しくなります。これが、他インフラ分野と比べて水道コンセッションの失敗が多い理由の一つとされています。
(輸送をイメージしています)

2021年2月16日火曜日

(5)水道事業の成果

コンセッション契約の際には、利用者がサービスに満足するように、様々な目標指標を設定し、民間企業にその達成を求めます。

この目標設定が契約上非常に重要ですので、水道事業の成果がどういった指標で測られるのかを少し考えてみましょう。

一般の方々が求める指標としては、以下の様な項目でしょうか。利用者が満足するためには、経済性と安全性(常時、災害時)のバランスが取れていることが必要に感じます。

1)期待される項目
- 水を口に含んだ時に嫌な臭いがしない
- 地震等の災害時に断水しない(または断水期間が短い)
- 理不尽な値上げが実施されない

2)当然満たされる条件
- 充分な水圧で24時間給水される
- 健康を害する様な水が供給されない


専門的に言うと、日本の大都市の水道事業の比較・評価に用いられる、水道事業ガイドラインの事業指標PI(Performance Indicator)を以下に整理します。

2021年時点でPIは全118項目から成り(下表参照)、「安全で良質な水(16項目)」、「安定した水の供給(57項目)」、「健全な経営財務(45項目)」に3項目に分類されています。

「安全で良質な水」水質項目と各施設の運転・整備状況が管理されています。

「安定した水の供給」漏水率や有収率などの事業効率性を示す代表的な指標の他、断水の発生する頻度、環境対応度、及び震災への対応状況が管理されています。日本の指標は地震の多い地域性が考慮され、他国と比べて震災関連の指標が多いことが特徴的です。

「健全な経営財務」企業の財務分析に用いられる一般的な財務指標の他、組織体制や顧客対応度についても指標が管理されています。

これら指標は事業体毎に毎年まとめられ、他事業体と比較されるために総務省へ報告されています。ただし目標値の設定や罰則等はありません。以下に平成30年のデータを載せます。

表 水道事業ガイドライン(JWWA Q100:2016)の概要

目標分類区分項目数,概要
A)安全で良質な水(16項目)運営管理水質管理9項目,消毒のための残留塩素濃度等,水質関連
施設管理5項目,検査や清掃頻度,直結給水割合など
災害対策2項目,水源事故件数など
施設整備施設更新1項目,鉛管の割合
B)安定した水の供給57項目)運営管理施設管理17項目,負荷率,漏水率,有収率,普及率など運営に関する主要な項目
事故災害対策11項目,管路事故頻度,断水時間など
環境対策6項目,電力消費量・CO2排出量など
施設整備施設管理2項目,ダクタイル管率,管路新設率など
施設更新5項目,施設毎の法定耐用年数超過率,更新率など
事故災害対策16項目,施設毎の耐震化率,薬品等備蓄日数など
C) 健全な事業経営45項目)財務健全経営27項目,営業収支比率,料金回収率,給水原価など
組織・人材人材育成7項目,研修時間,資格取得度など
業務委託2項目,検診,浄水場の第3社委託率
お客様とのコミュニケーション情報提供3項目,広報誌・インターネットの整備状況など
意見収集6項目,アンケート実施,苦情対応割合など


2021年2月14日日曜日

(3)水道公社と民間企業の役割分担

ここでは水道公社と民間企業の役割分担を説明します。
また業務分担と関連が深い、事業運営時のリスク分担についても説明します。






1.役割分担
まずコンセッション契約を委託する水道公社、それに業務を受託する民間企業の役割について以下に概要をまとめます。
下表が一般的にコンセッション契約でそれぞれの役割とされる事項です。

  表 水道局と民間企業(コンセッショネア)の役割分担
 コンセッショネア(民間)公共機関(水道公社、規制機関)
義務事項(1)水質基準を満たした処理水の提供(1)コンセッショネアから提出された運営・管理情報の受領
(2)需要量を満足した処理水の継続的な提供(2)コンセッショネアの運営業務の検査,施設・文書の検査
(3)既存施設の改修と維持管理(資金調達を含む)(3)料金改定に関わる検査と承認
(4)新規施設の建設・改修と維持管理(資金調達を含む)(4)コンセッショネアの許認可取得の支援
(5)上下水道使用料金・接続料金の回収(5)不適切なサービス実施の場合の改善勧告・罰則規定
(6)使用者の問い合わせ・苦情への対応 
(7)サービス実施に関わる許認可の取得 
(8)規制機関へのコンセッションフィー支払い 
(9)規制機関への定期的な技術・財務レポートの提出 

民間企業(コンセッショネア)側の業務ですが、基本的に今まで公的機関が実施してきた水道サービス事業の大部分を実施することとなります。

(1,2):コンセッショネアに十分な水質・水量の処理水の継続的な供給が求められます。
(3, 4):民間企業は基本的に全ての既往・新規施設の建設・改修・維持管理を実施する。過去事例では水源開発や取水施設等の開発・維持管理は水道公社が実施する場合あり。
(5, 6):料金の回収を実施し、問合せや苦情へも対応します。
(7, 8):規制機関に対しては、コンセッションフィーと呼ばれる費用(既往債務返済,運営費等)の支払と、運営情報の報告を実施します。

2.リスク分担

上に記載した一般的なコンセッション契約の条件を元に、契約に関するリスク分担表を以下のとおり作成してみました。
コンセッショネアは水道事業に必要となる全体施設を受け持ち、新規施設の建設と、新規・旧施設の維持管理・補修を実施・管理します。また、料金徴収と資金調達・会計処理を担当し、これらの責任も有します。
公的機関が責任を有するリスクは、料金調整・改定の承認リスク、公的リスク、議会や他市との調整、また民間企業が責任を取ることができない自然災害等に限られます。
自然災害リスクについては、民間企業に予防・対策に関する費用削減の動機付けをするため、一部費用の負担を課す場合もあります。

表 水道局と民間企業(コンセッショネア)の役割分担
想定されるリスク民間利用者コメント
1.需要リスク家庭利用需要変動リスク  需要リスクは民間管理する。
1人当たり水道使用量リスク  
工業利用者変動リスク  
2.原水確保~受水施設原水の水量、水質の確保  水源民間範囲場合責任つ。
原水購入費用増加  
新規開発水源の開発 民間投資実施大規模場合補助金検討
新規開発水源の保全管理 民間管理するが、範囲機関調整
設備の維持管理  民間管理するが、範囲機関調整
3.浄水施設浄水施設等の計画設計 基本的民間管轄し、責任つ。将来投資計画管理する。
施設維持管理、浄水処理、排水・排泥処理  
保守及び修繕工事  
新規浄水場建設 
4.水質検査(末端)水質試験及び試験(必要機器、薬品管理含む)  基本的民間管轄し、責任つ。
水質悪化のリスク  
5.配水施設配水管新設・更新計画策定 基本的に民間が管理。将来の投資計画は公が計画精査する。
配水管管理  基本的に民間が管轄し、責任を持つ。
工事設計・監理  
巡回点検・定期点検  
漏水事故対応  
漏水調査・補修  
水圧不足  
新規地域へのサービス提供遅延(普及低減  
6.給水施設給水管の管理 民間管理
給水管の新規接続・修繕 顧客費用支払
顧客からの苦情対応  民間対応
給水停止(停電を含むけれれない理由  費用負担
給水停止民間企業瑕疵による場合  民間成果指標の1つ。罰則適用あり
8.労務管理コンセッション開始の公務員職員雇用  管理
事業期間中の処遇待遇  契約書雇用条件規定
契約終了時の公務員職員の取り扱い  終了後職員けられる体制をとる
9.施設の移管既存施設の診断と評価 施設情報精緻化必須
既存施設の瑕疵責任  情報管理提供
新規施設の瑕疵責任  民間責任する
10.情報管理既存施設情報整理  管理
資産情報、O&M情報等の取扱  民間管理し、契約
終了時情報提供  
7.料金関連料金設定根拠説明責任(対市)  民間説明
料金設定根拠説明責任(対利用者・議会)  議会等へは実施する
料金改定承認  契約書条件厳守承認されない場合収入源てん。
検針・料金徴収  民間管理
滞納整理  
未払利用者の閉栓・復旧  
11.経済リスクインフレーション(人件費電力薬品工事費  料金調整値上げにまれる
受水費上昇  管理
原水購入の上昇  
契約既往債権返済  
為替変動  民間管理
金融機関からの借入返済  
投資への配当処理  
財務管理・会計報告  
12.許認可・既存契約・水道行政の方向性水道事業認可  手続実施
将来のマスタープラン策定 5料金改定事業計画作成更新内容精査する。
周辺自治体および県との調整、連絡協議  公的機関調整
13.政治リスク議会議決の遅延、および否決  基本的損失負担する
市民への説明責任、情報公開対応 
事業に直接的に関わる法制度変更  
事業に直接的に関わらない法制度変更  一般的法律変更については民間責任
14.不可抗力(地震・天災・渇水・テロ行為・その他外部侵入者によるもの)不可抗力(その他外部侵入者除く)による施設損壊 損傷費用補修動機づけのために民間一部負担
不可抗力時(その他外部侵入者除く)の給配水対応 
不可抗力時(その他外部侵入者除く)による料金徴収の不能 基本民間がリスクを保有する。一定以上負担検討
その他外部侵入者によるもの  民間管理