2021年4月15日木曜日

「1.水道民営化に関するQ&A」目次


はじめに、良くあるコンセッションにまつわる「6つの疑問・懸念点」について、回答を作成してみました。

過度な懸念と思われる点については、心配がいらない旨返答しています。一方、いくつかの質問については「現状ではわからない」と正直に回答をしています。

Q1. コンセッション(水道民営化)で水道料金が上がるって本当なの?

Q2. コンセッション(水道民営化)で飲み水の安全性が脅かされないの?

Q3. コンセッション(水道民営化)で災害時に充分な対応ができるの?

Q4. コンセッション(水道民営化)をすると海外企業に命の水を奪われるって本当?

Q5. コンセッション(水道民営化)で水道事業の効率性が上がるの?

Q6. 水道分野のコンセッション契約は失敗が多いって本当?

Q6. 水道分野のコンセッション契約は失敗が多いって本当?

はい、過去事例の分析結果より、水道分野の民営化(コンセッション)は他の分野と比べて失敗する割合が多いと言えます。

論文による研究結果ですが、中南米のコンセッション事業例約1000件を分析したところ、上下水道分野の失敗確率(大幅な契約変更が発生した確率)は、他分野平均よりも2.5倍ほど高くなりました。計量分析により、その原因を分析した結果、民間の投資義務や資金調達がある場合に失敗する確率が上がり、規制機関の能力が高いと逆に下がると分析されています。

※より良い論文などご存じでしたらコメントください。






1)上下水道コンセッションが失敗した割合

少し古いですが、Guash(2004年)は1985年から2000年にかけて中南米で実施された4分野(通信、電力、交通、上下水道)のコンセッション事業1000件の過去事例の研究を行い、論文をとりまとめました。

分析の結果、1000件中大幅な契約変更が行われた事例(失敗例)は全体で29.8%であり、そのうち上下水道分野の失敗割合が最も大きく74.4%(137案件中102件)となりました。事業開始から再契約までの期間も、4分野全体の平均2.2年に対し、上下水道分野は最も短期間の1.6年でした。

2)失敗の理由(要因分析)
事業が失敗した理由ですが、個別事例を分析するほか、多数のデータをもとに計量分析で求める方法があります。以下2つの論文結果をまとめますが、コンセッションが成功するには規制機関の能力向上と罰則強化などが効果があり、逆に民間の投資・資金調達が増えると失敗しやすいとの結果になっています。

Guash(2004)の論文では、水道分野を含むコンセッション事例942件に対し、計量分析により失敗(契約変更)の原因分析をしており、以下の条件で失敗が増減したと結論付けています。

失敗が増える条件民間投資義務あり、民間資金調達あり、選挙あり、経済危機の発生、料金のPrice Capあり
失敗が減る条件:規制機関あり、政治の品質が高い、汚職頻度が低い

Estacheら(2009)の論文では、中南米8か国の交通分野(道路、鉄道)96案件の計量分析を行い、失敗の増減する条件を以下と分析しています。

失敗が増える条件応札評価の条件が多い(契約が複雑化するため)
失敗が減る条件:規制機関の能力が高い、賄賂への罰則が高い










ここでは海外の論文をもとに原因などを整理しましたが、水道事業の特徴と、コンセッションによる難しさについては、「(1)水道事業の特徴、他の公共サービスとの違い」にまとめましたので参考にしてください。

参考資料

2021年4月7日水曜日

書籍レビュー:フランスの上下水道経営―PPP・コンセッション・広域化から日本は何を考える(2020)

お勧め度:★★★☆☆
分かりやすさ:★★★☆☆
専門性 :★★★★★

主にコンサルタントが記述した書籍です。フランスの水道事業の実施方法、契約内容、法制度、水メジャーの実態等が詳しく説明されています。

コンセッションだとかアフェルマージュといった水道PPPの方式は、フランスの実施方法がもとになっているのですが、詳細を詳しく説明した資料は少なく(英語で探せばあるのかもしれませんが)、個人的には大変勉強になりました。

ただ、コンサルタントが専門家向けに作成した書物であり、ある程度の知識がないと読解は難しい印象でした。このため、市民の方々へのお勧め度としては☆3としています。

個人的に勉強となった点は以下でした。

・日本の自治体に該当するコミューンが全国で3万5000もある。事業当りの平均人口は、水道で5500人、下水道で4400人と非常に少なく、専門的な会社に委託する下地があった。

・料金を元手に事業を運営するコンセッションとアフェルマージュがあるが、法令上はコンセッションで統一されている。アフェルマージュは法的に明確化されておらず、一般的な概念のみ存在している。

・上水道事業のレジー(公営)とDSP(民間委託)の人口比は2015年時点で41%:59%とDSPが多い。DSPのうち、コンセッションとアフェルマージュの比率は、12%:88%とアフェルマージュが高い。

・下水道のレジー(公営)とDSP(民間委託)の人口比は2016年時点でレジー60%、DSP40%と、レジーが多い。下水事業の財源は日本に近く、雨水排除や汚水処理の過半が補助金で賄われている。