よくわかる水道民営化(基本から他国事例まで)
2023年5月26日金曜日
目次:よくわかる水道民営化(基本から他国事例まで)
5.他分野の国内コンセッション事例から学ぼう
(1)愛知県道路公社の道路コンセッション(2016年)/(2)浜松市の下水道コンセッション(2018年)/(3)仙台空港のコンセッション(2016年)/(4)宮城県の上下水道コンセッションー前編(2022年)/(4)宮城県の上下水道コンセッションー後編(2022年)2023年5月17日水曜日
「5.他分野の国内コンセッション事例から学ぼう」目次
国内では既に道路、下水道、空港などの分野でコンセッションが契約・実施されています。
・内閣府資料(2020年4月時点の案件数、PDF)
コンセッション契約の入札基準や契約条件について整理し、水道コンセッションと異なる点および類似点を明確化します。
2023年4月11日火曜日
(4)宮城県の上下水道コンセッションー後編(2022年)
(4)宮城県の上下水道コンセッションー前編(2022年)の続きです。
前編では事業概要や契約形態について述べましたが、ここでは企業選定の方法とモニタリング方法、個人的な意見を記載します。
5.企業の選定方法
企業の選定方法ですが、詳しく各種資料を見ると、県は「費用削減は県が試算した程度(現状と比べて約10%)で良く、その制約の中でできるだけ高度で安全なサービスを提案して欲しい」という依頼をしています。
企業選定の配点方法は以下の図のとおりです。合計200点のうち、配点の高い項目順に並べました。県の説明資料では、費用削減の効果が大きく述べられていますが、判断基準としては3番目で、配点は20%分となります。
2)改築・修繕等:42点、21%
3)運営権者提案額:40点、20%
5)全体事業方針・実施体制等:30点、15%
6)地域貢献:10点、5%
6.モニタリング方法
7.個人的な感想
これまで整理した内容を受け、個人的な感想を書きます。
1)安全性を重視した契約形態
みやぎ上下水道コンセッションは、アフェルマージュ契約に近く、過去事例で問題の大きかった配管投資を県の役割とし、事業リスクを減らしています。業者選定基準も、費用削減より運営管理・安全性確保を重視しています。
個人的に、国内では水道事業に費用削減よりも安全確保を求める利用者が多いと推測するため、採用された契約形態・評価方法は良く練られた内容と感じています。
2)市民への説明不足
一方、水道コンセッション導入に関する、県から市民への説明は不十分であったと感じます。命の水を守る市民ネットワーク・みやぎは、事業検討時の住民説明会の回数や参加者の少なさを指摘しています。また、県が作成した説明資料は費用削減が大々的に謳われていますが、実際の企業選定では費用削減よりも運営管理や安全確保が重視されています。アフェルマージュに近く、一般的なコンセッションと異なる契約形態も十分に説明されていない印象です。
国内初の水道コンセッションであり、住民説明が難しかったことは容易に想像できますが、市民が十分に理解・納得していない状況で、将来的に問題が起こった場合、政治的な混乱を招き、事業が失敗に終わる可能性が残ります。
3)批判的な分析・チェックを行う重要性
最後に、県が設定した本事業のモニタリング・規制方法は一般的な仕組みです。注目するべき点は、その仕組みの外で市民団体が活躍し、市民の立場で批判的な指摘をしていることです。
県・公的機関は、これら反対する市民団体を排除するのではなく、社会的に有益な組織・活動として支援する仕組みを作り、共存していく体制を整えることが大切ではないでしょうか。水道事業に限らず、多くの公共事業で理想的な有るべき姿と考えます。
2023年4月10日月曜日
(4)宮城県の上下水道コンセッションー前編(2022年)
正式な事業名は、「宮城県上工下水一体官民連携運営事業」です。
(図は宮城県作成の資料から抜粋しています)
1.経緯
2016-2017:検討会の開催、事業スキーム決定
2018:県の導入調整会議
2019-20:事業制度を検討、特定事業の選定、募集要項公表
2022:4月より「株式会社みずむすびマネジメントみやぎ」が運営開始
2.事業費用
4.契約スキーム:
事業形態はコンセッションとなっていますが、一般的なコンセッション契約と異なる特徴的な点を記載します。
(1)フランスのアフェルマージュ契約に近い条件(配管更新は公が実施)
(2)料金徴収方法は企業から県に委託
2023年3月19日日曜日
(3)災害時の安全性の低下
2023年3月7日火曜日
(2)施設の老朽化と更新費増加
現在の水道事業の課題の1つは、施設の老朽化と更新費の増加です。
「水道事業の現状と課題(平成30年度、総務省)」に水道事業の投資実績が整理されています。この資料によると、1970~2005年頃まで(35年間)の年間設備投資額は1.2~1.9兆円/年程度で推移しています(図1参照)。最大値は1998年(H10)の約1.9兆円です。
配管設備の耐用年数は、一般的に50年と言われています。投資が増加したのは1975年頃で今から48年前ですので、これから多くの施設が寿命を迎え、破損等の事故が増えると思われます。
老朽化した施設は、更新していく必要が有ります。仮に耐用年数超の施設を全て更新した場合、年間1.3兆円~1.9兆円の更新費が必要となり、1人当りの負担は年間11,000~16,000円/人です(人口1.2億人で計算)。東京都の1人当り年間水道料金は、約10,000~15,000円/人なので、収入が全て施設更新費で無くなってしまうレベルですね。
同じ資料に、管路の更新率の推移(図2)が示されているので見てみましょう。耐用年数50年で考えると、理想的な更新率は2.0%となりますが、2016年(H28)で0.75%しか有りません。しかも、老朽化する管路が増える中、この率は減少傾向にあります。つまり、老朽化した施設が増えているが、十分に更新が進められていない現状が分かります。
施設老朽化が進むけれど、更新費用の負担も大きく、十分に更新できていない状況が分かりました。国内の水道事業は、人口減の影響で今後も収入減が予想されており、どうやって現在の安全性と品質の高いサービスを維持していくかが大きな課題となっています。
2022年1月11日火曜日
(1)小規模水道事業は低効率で高料金
以前の記事で、現在の水道事業の欠点の1つとして、「低効率な小規模事業が多い」ことを挙げましたが、実際のデータを使って説明します。
総務省データの規模区分に従って、給水人口別の事業体数、月当りの平均料金(円/20㎥)、施設利用率、有収率を下図にまとめました。
データのある上水道事業体数は合計1,252です。日本の人口が1.25億人ほどなので、平均的な規模は事業当り10万人程度です。
表1.給水人口規模別の料金、施設利用率、有収率
個人的には、現在の事業規模は小さすぎるため、広域化により規模を拡大し、事業効率性向上を目指すことが必須だと考えます。
2021年10月4日月曜日
マニラで見た上下水道コンセッションの現状(2021年)
現在(2021年10月)、フィリピンのマニラ出張中です。せっかくなので、コンセッションが行われているマニラ上下水道事業の状況を整理してみます。
水質や料金徴収は適切に運営・管理されている印象でしたが、下水配管の損傷事故を見つけました。老朽管の更新は費用が高く、日本でも問題となっており、民間企業に任せるか否か、その場合どう管理していくのかを検討する必要が有ります。
1.良好な水道水質
写真(左)はホテルの蛇口から汲んだ水道水です。見た目きれいで、変な匂いも無く、東京の水道水とも変わらない印象です。途上国のコンセッションで水質に問題が生じる事例は少なく、マニラでも同様です。
ホテルには飲用のボトルも設置されていました(写真右)。途上国では水質が悪い地域も多く、飲用水の配布ビジネスが成立しています。
写真:蛇口からの水(左)、ホテルの飲料水ボトル(右)
2.整備された給水メーター
滞在ホテルの近所で家庭・店舗用の給水メーターの写真を撮りました。盤面も綺麗ですし、ゲージで囲まれたメーターもあります。仕事でアジア、アフリカ、中南米と回りましたが、途上国でこれだけ整備された給水メーターを見ることは有りません。
コンセッション契約では水道料金が直接民間企業の収入となるため、メーターの設置/整備が良好に保たれます。これはコンセッション導入のメリットのひとつで、水道事業の財務安定性に寄与します。
3.課題の残る下水管整備・更新
職場近くで、下水管・マンホールの損傷による、道路冠水箇所を見つけました。ホテルやオフィスの並ぶエリアですが、道路横断も困難で、臭いも生じていました。1週間後も工事は終わらず同じ状況でした。
上下水道事業は配管施設の占める費用が大きく、古い管の更新業務は後回しにされがちです。日本のコンセッションでも、配管整備・更新をどう管理していくかが課題となっています。
写真:下水管損傷による道路冠水(左)、補修工事用機械(右)
4.上下水道コンセッションの概要
フィリピンの首都マニラでは、1997年より地域を2分割し、別々の民間会社に上下水道の投資と運営を任せています。今回滞在したホテル・オフィスは、マニラ西側の上下水道を運営するマニラッド社の給水エリアでした。コンセッションの経緯や特徴は、以前の記事でも整理しているので、読んでみてください。
・マニラッド社HP (マニラ西側の運営・管理)
2021年9月14日火曜日
今の水道事業の欠点は?(改善されるべきポイント)
今回は日本の公共水道の3つの欠点について記載します。
「水道民営化で問題解決!」と言う賛成派も居ますが、公共のままでも解決が可能な事柄が多いです。議論するためにも、欠点を良く理解しましょう。
1)小規模水道事業は低効率で高料金
水道事業年鑑(令和元年)によると、水道事業は1,856 事業(上水道事業1,321+簡易水道事業535)あります。日本では市町村ごとに水道事業が実施されてきた歴史があり、合計市町村数1,718(2021/9時点、総務省)とおおよそ一致します。
事業数が多いことは、小規模が事業体が多いことを示しています。小規模事業は事業の効率性が低いことが分かっており、解決には他の事業と統合される広域化が必要です。
2)費用・効果が最適化されていない(過剰投資?)
国内の水道は高い技術力を誇りますが、効果と費用が最適化されているかどうか疑問が残ります。日本の水道は低い漏水率が特に有名であり、令和元年の東京都水道局は有収率95.8%(資料)です。これは漏水などで無駄になる量が、浄化された水量のわずか4.2%という意味であり、世界的に高い水準ですが、その分費用がかかっています。比較として、イギリスでは漏水率は15~20%程度と漏水が多いものの、配管への投資は低く抑えられています。
どこまで投資・サービス改善するかの判断は難しいですが、国内の水道財政は悪化が見込まれており、費用と効果のバランスを再検討することが重要だと思います。
3)安全性に関する情報不足
国内の水道事業でこれから重要視されるのは、安全性だと思います。全国で水害や地震などの被害が増えており、天災時でも高い安定性の確保が期待されています。また安全性への懸念が、水道民営化に反対する主な理由の1つとなっています。
現在、水道事業者の提供する安全性に関する情報が少なく感じます。このため、求める安全性の水準と、かかる費用の関係が分かりません。公または民間企業の運営の、どちらが安全性を向上できるのかといった比較も難しいです。このため、安全性に関する充分な情報開示と、利用者へのよりわかりやすい説明が求められます。