2023年5月26日金曜日

目次:よくわかる水道民営化(基本から他国事例まで)



6. 公共水道の課題

(1)低効率な小規模事業が多い/(2)施設の老朽化と更新費増加/(3)災害時の安全性の低下


7. 提案・時事


8. 結婚生活に喩えてみた水道コンセッション事業

(1)婚活期間(事業形成~契約)/(2)夢見た結婚生活(事業の運営)/(3)離婚する?しない?(事業の失敗)/(4)添い遂げるためのアドバイス(事業成功のために)


2023年4月11日火曜日

(4)宮城県の上下水道コンセッションー後編(2022年)

 (4)宮城県の上下水道コンセッションー前編(2022年)の続きです。

前編では事業概要や契約形態について述べましたが、ここでは企業選定の方法とモニタリング方法、個人的な意見を記載します。

5.企業の選定方法

企業の選定方法ですが、詳しく各種資料を見ると、県は「費用削減は県が試算した程度(現状と比べて約10%)で良く、その制約の中でできるだけ高度で安全なサービスを提案して欲しい」という依頼をしています。

企業選定の配点方法は以下の図のとおりです。合計200点のうち、配点の高い項目順に並べました。県の説明資料では、費用削減の効果が大きく述べられていますが、判断基準としては3番目で、配点は20%分となります。

1)水質管理・運営管理・保守点検:44点、22%
2)改築・修繕等:42点、21%
3)運営権者提案額:40点、20%
4)セルフモニタリング・危機管理・事業継続措置:34点、17%
5)全体事業方針・実施体制等:30点、15%
6)地域貢献:10点、5%

また、「運営権者提案額」の採点基準として、提案金額は県の試算金額より少なければ、どれも同一得点という方法が示されています(優先交渉権者選定基準)。

図1 業者選定の配点配分

実際に応札した企業グループは3グループあり、その結果は以下の図のとおりです(県資料の図に、青い四角を追記)。
A・B・Cグループがそれぞれ将来20年間にかかる費用を提案し、より少ない費用を提示した順に、B(1389億円)<A(1538億円)<C(1563億円)でしたが、3グループとも県の試算額1653億円より金額が小さいため、採点はB=A=C(最高の20点)となっています。従い、BグループとCグループの費用の差額174億円は、評価上は無視されました。
最終的な結果として、総合得点はC>B>Aの順になり、より高額な費用を提案していたCグループが最高得点を獲得して、運営権者として選定されました。

図2 選定結果

※事業費の妥当性については判断がつかず、分析していません

6.モニタリング方法

コンセッションは長期間に渡る契約であり、運営期間中の規制・モニタリングが非常に重要です。
本事業では図のとおり、①運営権者、②県、③経営審査委員会の3段階のモニタリングが実施されるとしています。

他国の事例などと比べて、この仕組みはそれほど特別なものとは感じません。
普通、コンセッション契約の中で、民間企業から規制機関(県)への定期的な情報提供が義務付けらますので、セルフモニタリングは当然の内容です。
また、マニラ上下水道コンセッション等でも、県に相当する規制機関(MWSS)の他に、フィリピン大学教授・法務/財務の専門家が分析・関与する体制が採られており、経営審査委員会と同様の効果を示しています。

図3 事業のモニタリング方法

私が驚いたのは、上の仕組みの外にある、市民団体「命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ」の活動です。
本事業の検討段階から運営が始まった現在まで、HPやYoutubeでの広報、担当者とのやり取りや県議会の記録公開、県へ質問状送付などを実施しています。独自で実施している活動として、大変な作業量です。
本団体から送られた質問状に対し、県も正式に回答しており、利用者・市民の立場で、事業の評価・モニタリングへの貢献が大変大きいと感じます。

7.個人的な感想

これまで整理した内容を受け、個人的な感想を書きます。

1)安全性を重視した契約形態

みやぎ上下水道コンセッションは、アフェルマージュ契約に近く、過去事例で問題の大きかった配管投資を県の役割とし、事業リスクを減らしています。業者選定基準も、費用削減より運営管理・安全性確保を重視しています。

個人的に、国内では水道事業に費用削減よりも安全確保を求める利用者が多いと推測するため、採用された契約形態・評価方法は良く練られた内容と感じています。

2)市民への説明不足

一方、水道コンセッション導入に関する、県から市民への説明は不十分であったと感じます。命の水を守る市民ネットワーク・みやぎは、事業検討時の住民説明会の回数や参加者の少なさを指摘しています。また、県が作成した説明資料は費用削減が大々的に謳われていますが、実際の企業選定では費用削減よりも運営管理や安全確保が重視されています。アフェルマージュに近く、一般的なコンセッションと異なる契約形態も十分に説明されていない印象です。

国内初の水道コンセッションであり、住民説明が難しかったことは容易に想像できますが、市民が十分に理解・納得していない状況で、将来的に問題が起こった場合、政治的な混乱を招き、事業が失敗に終わる可能性が残ります。

3)批判的な分析・チェックを行う重要性

最後に、県が設定した本事業のモニタリング・規制方法は一般的な仕組みです。注目するべき点は、その仕組みの外で市民団体が活躍し、市民の立場で批判的な指摘をしていることです。

県・公的機関は、これら反対する市民団体を排除するのではなく、社会的に有益な組織・活動として支援する仕組みを作り、共存していく体制を整えることが大切ではないでしょうか。水道事業に限らず、多くの公共事業で理想的な有るべき姿と考えます。

2023年4月10日月曜日

(4)宮城県の上下水道コンセッションー前編(2022年)

2022年4月から始まった、宮城県の上下水道コンセッションについて記載してみます。
正式な事業名は、「宮城県上工下水一体官民連携運営事業」です。
(図は宮城県作成の資料から抜粋しています)

まず、経緯、事業費用、事業概要、契約スキームを整理しました。
企業の選定方法、モニタリング方法、個人的な感想は次の回に記載予定です。

1.経緯

2014-2015:事業検討
2016-2017:検討会の開催、事業スキーム決定
2018:県の導入調整会議
2019-20:事業制度を検討、特定事業の選定、募集要項公表
2021:事業者選定(メタウォーターグループ)
2022:4月より「株式会社みずむすびマネジメントみやぎ」が運営開始

2.事業費用

以下、20年間の事業費総額と民間企業への発注金額です。
事業費総額:3,314億円
民間企業への発注金額:1,563億円(全体の47%、年78億円程度)
費用削減額(推計):-337億円(県運営の削減分50億円も含む)

3.事業概要

対象事業:複数事業をバンドリング
2つの水道用水供給事業、3つの工業用水道事業、4つの流域下水道事業をまとめて発注しています。
それぞれの規模ですが、契約書(案)に記載の水量(合計225,061㎥/年、令和4年)で見ると、水道用水供給事業が48%、工業用水道事業が14%、流域下水道事業が38%の割合となります。
複数の事業をまとめて発注することはバンドリング(Bundling)と呼ばれ、愛知県の道路コンセッションや、北海道の空港コンセッションでも用いられる手法です。
対象地域が重複する事業を選び、業務効率化により運営費用削減を目指したとのこと。

図1 事業区域

4.契約スキーム

事業形態はコンセッションとなっていますが、一般的なコンセッション契約と異なる特徴的な点を記載します。

(1)フランスのアフェルマージュ契約に近い条件(配管更新は公が実施)

県と民間企業の役割分担を、県の説明資料で示します。
水道用水供給事業は水源から浄水場まで。工業用水道事業は水源、浄水場、企業までの配管、流域下水道事業は下水処理場と放流です。

配管施設の多い青丸部分(追記)は対象となっていないことが分かります。

図2 事業別の対象施設(県資料に青丸を追記)

調査レポート(平成30年)でも、配管更新部分は県が実施することが明記されています(青丸を追記)。

表1 施設別の役割分担(県資料に青丸を追記)

一般的な水道のコンセッション事業では、浄水場や設備更新に加え、配管施設の管理・更新も民間企業が実施するため、宮城県の方式は、配管施設の管理・更新を公が実施する点が、本事業の特徴です。
水道事業の設備投資は約6割が配管に費やされますが、それを宮城県が実施するわけです。
従って、全体事業費を見ると、合計3,314億円のうち1,563億円(47%)分が民間の負担費用で、残りの1,751奥園(53%)は県の負担となり、県の役割が大きいことが分かります。

配管の更新を公が実施する形態は、フランスのアフェルマージュのスキームに近いものです。
水道事業の官民連携事業の中で、アフェルマージュは失敗事例が少ないことが知られていることから、リスクを抑えた契約形態と言えます。

アフェルマージュの契約形態については、以下を参照ください。


(2)料金徴収方法は企業から県に委託

通常のコンセッション事業では、民間企業が利用者から料金を徴収します。
本事業では、契約上は民間企業の役割としつつ、県に料金徴収を委託する形態を採用しており、この形態も特徴的です。
契約書(案)によると、委託費用は年288,000円で、契約額に比べると小さい金額です。

普通のコンセッションでは、民間企業がまず料金を収集するため、罰金等を徴収しにくいとの指摘が有ります。
本事業では県が料金を収集し、罰金等を天引きして民間企業に報酬を支払う形態となっており、比較的企業の運営を規制しやすい形態と言えます。

2023年3月19日日曜日

(3)災害時の安全性の低下

国内の水道事業の課題の1つは、「安全性の低下」です。

水質の安全性を思い浮かべる方もいると思いますが、日本では適切な水質管理と塩素消毒が義務づけられており、健康被害が出る可能性はほとんどありません。今後課題となるのは、地震や洪水といった災害時の安全性低下です。
以下に過去の災害被害と復旧過程を整理しますが、断水の原因のひとつは老朽化施設の損傷です。老朽化施設の更新には多大な費用がかかり、今後対応が遅れ、「安全性の低下」が懸念されています。

1.過去の断水被害
水道行政の最近の動向等について(厚生省、2021年)」をもとに、過去の大きな地震災害と洪水災害による断水戸数と断水日数を示します。

1)地震災害による断水戸数・期間
・熊本自身 2016年 45万戸 約105日
・東日本大震災 2011年 257万戸 約150日
・阪神・淡路大震災 1995年 130万戸 約90日

2)洪水災害による断水戸数・期間
・東日本台風(宮城、福島、茨城、栃木等) 2019年 約17万戸 33日
・房総半島台風(千葉、東京、静岡等) 2019年 約14万戸 17日
・豪雨(広島、愛媛、岡山等) 2018年 約26万戸 38日

地震災害の断水戸数は40~260万戸、断水期間も90~150日と規模の大きいことが分かります。洪水被害の断水戸数は10~30万程度と少な目ですが、気候変動の影響か発生頻度が増えている印象があり、今後も注意が必要です。


2.東日本大震災の被害復旧状況
上記のうち、東日本大震災の規模・断水期間が最も大きいため、「東日本大震災水道施設被害状況調査最終報告書(厚生省、2013)」をもとに、被害復旧状況をまとめます。
以下は、地震発生後の時間経過と断水戸数のグラフです。


時間経過と実施内容を整理します。

1)発生後数日~1週間
断水戸数は災害発生直後180万戸にも及びましたが、1週間で半分程度に減少しています。
災害が発生した直後、住民は数日分の飲み水しか確保していないことも多く、断水した避難所や居住地域に給水車で緊急することになります。給水車は周辺の水道事業体から提供され、浄水場のタンクや利用できる井戸から給水されます。
また、東日本大震災の断水の1/3程度は、停電が理由で発生したそうです。故障した自家発電装置の修理、燃料供給などで、比較的早く復旧されたそうです。
各事業体の対策室が設置され、被災情報の収集、給水車・設備・人員などの適宜配置、復旧計画の策定などが進められます。

2)1週間後~1か月後
断水戸数は2週間後に最大値(180万戸)の2割、1ヶ月に1割程度に減少しています。
施設の損傷状況など確認した後、重要な箇所から補修が進められて行きます。

3.東日本大震災の支援活動・被害額、課題点
復旧のために費やされた支援活動と、被害額を以下に示します。

1)支援活動
全国の水道事業者から多大な支援活動が提供されており、合計で給水車14,000車・日、作業員延べ40,000人・日、職員派遣延べ12,000人・日、水道工事業者も52,000人・日が提供されました。これら周辺事業体からの支援体制の拡充、マニュアルの整備などが求められています。

2)施設別の被害額
国への補助金申請データによると、施設の被害額は合計301億円で、そのうち浄水施設が109億円(37%)、配水施設が112億円(36%)。被害が多かった施設は、浄水施設は旧耐震基準(1979年以前)の施設、配水施設は敷設年度が古い硬質塩化ビニル管(TS継手)と判明しています。被害を抑制するには、これら老朽化した施設を計画的に更新することが必要です。

3)対策と課題
東日本大震災では献身的な人的・財務的支援により復旧が実施されたわけですが、事前に予防的な施設更新が実施されていれば、これら被害はもっと抑えられた可能性が有ります。
国内水道事業は、人口減少や施設老朽化により収益性が悪化すると指摘されており、適切な耐震化・施設更新ができない場合、結果として災害時の安全性が低下することが懸念されます。

2023年3月7日火曜日

(2)施設の老朽化と更新費増加

 現在の水道事業の課題の1つは、施設の老朽化と更新費の増加です。

「水道事業の現状と課題(平成30年度、総務省)」に水道事業の投資実績が整理されています。この資料によると、1970~2005年頃まで(35年間)の年間設備投資額は1.2~1.9兆円/年程度で推移しています(図1参照)。最大値は1998年(H10)の約1.9兆円です。

配管設備の耐用年数は、一般的に50年と言われています。投資が増加したのは1975年頃で今から48年前ですので、これから多くの施設が寿命を迎え、破損等の事故が増えると思われます。



出典:「水道事業の現状と課題(平成30年度、総務省)」21ページ
図1.過去の水道事業の投資実績

老朽化した施設は、更新していく必要が有ります。仮に耐用年数超の施設を全て更新した場合、年間1.3兆円~1.9兆円の更新費が必要となり、1人当りの負担は年間11,000~16,000円/人です(人口1.2億人で計算)。東京都の1人当り年間水道料金は、約10,000~15,000円/人なので、収入が全て施設更新費で無くなってしまうレベルですね。


同じ資料に、管路の更新率の推移(図2)が示されているので見てみましょう。耐用年数50年で考えると、理想的な更新率は2.0%となりますが、2016年(H28)で0.75%しか有りません。しかも、老朽化する管路が増える中、この率は減少傾向にあります。つまり、老朽化した施設が増えているが、十分に更新が進められていない現状が分かります。


出典:「水道事業の現状と課題(平成30年度、総務省)」24ページ
図2.管路経年化率・管路更新率の推移

施設老朽化が進むけれど、更新費用の負担も大きく、十分に更新できていない状況が分かりました。国内の水道事業は、人口減の影響で今後も収入減が予想されており、どうやって現在の安全性と品質の高いサービスを維持していくかが大きな課題となっています。

「6. 今の水道事業の欠点は?」目次

 ここでは、国内の水道事業が直面している課題3点を整理しました。



2022年1月11日火曜日

(1)小規模水道事業は低効率で高料金

以前の記事で、現在の水道事業の欠点の1つとして、「低効率な小規模事業が多い」ことを挙げましたが、実際のデータを使って説明します。


1)整理したデータ
日本の水道事業の各種指標は、総務省のホームページにまとめられており、そのデータから分かりやすい指標を選択しました。

水道事業経営指標(令和元年

総務省データの規模区分に従って、給水人口別の事業体数、月当りの平均料金(円/20㎥)、施設利用率、有収率を下図にまとめました。

データのある上水道事業体数は合計1,252です。日本の人口が1.25億人ほどなので、平均的な規模は事業当り10万人程度です。

表1.給水人口規模別の料金、施設利用率、有収率


給水人口規模別の施設利用率、有収水率を下図にまとめました。事業体の規模が小さいほど、効率性が悪いことが明確です。

施設利用率(1日平均配水量/1日平均配水能力):値が小さい→不効率な施設設計・利用
有収水率(年間総有収水量/年間総配水量):値が小さい→漏水や未徴収料金が多い

図1.給水人口規模別の施設利用率、有収率


給水人口規模別の水道料金(月20㎥利用)は下図のとおりです。20㎥は、3人家族の平均的な月利用量です。事業規模が小さくなるに従い、料金は上昇しており、都・指定都市(2,637円)と5000~1万人都市(3,794円)では、44%もの差があります。
地方の小規模自治体がより効率性が低く、そのために住民はより多くの費用を負担しているということです。

図2.給水人口規模別の月当り平均料金(円/20㎥)

2)対策
個人的には、現在の事業規模は小さすぎるため、広域化により規模を拡大し、事業効率性向上を目指すことが必須だと考えます。
規模の小さい事業体が近隣の事業体と合併すれば、より施設や職員を有効に活用でき、事業効率が上昇すると期待されます。これにより、長期的には水道料金も値下がりします。

実際には組織の統合、水道料金の統一などで反対もあると思いますが、政治的なリーダーシップで推進するべきと思います。

2021年10月4日月曜日

マニラで見た上下水道コンセッションの現状(2021年)

現在(2021年10月)、フィリピンのマニラ出張中です。せっかくなので、コンセッションが行われているマニラ上下水道事業の状況を整理してみます。

水質や料金徴収は適切に運営・管理されている印象でしたが、下水配管の損傷事故を見つけました。老朽管の更新は費用が高く、日本でも問題となっており、民間企業に任せるか否か、その場合どう管理していくのかを検討する必要が有ります。


1.良好な水道水質

写真(左)はホテルの蛇口から汲んだ水道水です。見た目きれいで、変な匂いも無く、東京の水道水とも変わらない印象です。途上国のコンセッションで水質に問題が生じる事例は少なく、マニラでも同様です。

ホテルには飲用のボトルも設置されていました(写真右)。途上国では水質が悪い地域も多く、飲用水の配布ビジネスが成立しています。

写真:蛇口からの水(左)、ホテルの飲料水ボトル(右)


2.整備された給水メーター

滞在ホテルの近所で家庭・店舗用の給水メーターの写真を撮りました。盤面も綺麗ですし、ゲージで囲まれたメーターもあります。仕事でアジア、アフリカ、中南米と回りましたが、途上国でこれだけ整備された給水メーターを見ることは有りません。

コンセッション契約では水道料金が直接民間企業の収入となるため、メーターの設置/整備が良好に保たれます。これはコンセッション導入のメリットのひとつで、水道事業の財務安定性に寄与します。

写真:近所の給水メーター(左・中・右)


3.課題の残る下水管整備・更新

職場近くで、下水管・マンホールの損傷による、道路冠水箇所を見つけました。ホテルやオフィスの並ぶエリアですが、道路横断も困難で、臭いも生じていました。1週間後も工事は終わらず同じ状況でした。

上下水道事業は配管施設の占める費用が大きく、古い管の更新業務は後回しにされがちです。日本のコンセッションでも、配管整備・更新をどう管理していくかが課題となっています。

写真:下水管損傷による道路冠水(左)、補修工事用機械(右)


4.上下水道コンセッションの概要

フィリピンの首都マニラでは、1997年より地域を2分割し、別々の民間会社に上下水道の投資と運営を任せています。今回滞在したホテル・オフィスは、マニラ西側の上下水道を運営するマニラッド社の給水エリアでした。コンセッションの経緯や特徴は、以前の記事でも整理しているので、読んでみてください。

マニラウォーター社HP (マニラ東側の運営・管理)
MWSS(規制機関、市レベルで設立)

2021年9月14日火曜日

今の水道事業の欠点は?(改善されるべきポイント)

今回は日本の公共水道の3つの欠点について記載します。

「水道民営化で問題解決!」と言う賛成派も居ますが、公共のままでも解決が可能な事柄が多いです。議論するためにも、欠点を良く理解しましょう。

1)小規模水道事業は低効率で高料金
2)費用・効果が最適化されていない(過剰投資?)
3)安全性に関する情報不足


1)小規模水道事業は低効率で高料金

水道事業年鑑(令和元年)によると、水道事業は1,856 事業(上水道事業1,321+簡易水道事業535)あります。日本では市町村ごとに水道事業が実施されてきた歴史があり、合計市町村数1,718(2021/9時点、総務省)とおおよそ一致します。

事業数が多いことは、小規模が事業体が多いことを示しています。小規模事業は事業の効率性が低いことが分かっており、解決には他の事業と統合される広域化が必要です。


2)費用・効果が最適化されていない(過剰投資?)

国内の水道は高い技術力を誇りますが、効果と費用が最適化されているかどうか疑問が残ります。日本の水道は低い漏水率が特に有名であり、令和元年の東京都水道局は有収率95.8%(資料)です。これは漏水などで無駄になる量が、浄化された水量のわずか4.2%という意味であり、世界的に高い水準ですが、その分費用がかかっています。比較として、イギリスでは漏水率は15~20%程度と漏水が多いものの、配管への投資は低く抑えられています。

どこまで投資・サービス改善するかの判断は難しいですが、国内の水道財政は悪化が見込まれており、費用と効果のバランスを再検討することが重要だと思います。


3)安全性に関する情報不足

国内の水道事業でこれから重要視されるのは、安全性だと思います。全国で水害や地震などの被害が増えており、天災時でも高い安定性の確保が期待されています。また安全性への懸念が、水道民営化に反対する主な理由の1つとなっています。

現在、水道事業者の提供する安全性に関する情報が少なく感じます。このため、求める安全性の水準と、かかる費用の関係が分かりません。公または民間企業の運営の、どちらが安全性を向上できるのかといった比較も難しいです。このため、安全性に関する充分な情報開示と、利用者へのよりわかりやすい説明が求められます。