国内でいくつか水道コンセッション事業の検討が進められています。
計画している市や県に質問すべき項目を、以下の3点に整理してみました。
1)コンセッション実施は何が目的?
2)費用削減(VFM)の内訳を教えて
3)県/市運営のままで業務改善できないの?(VFMの精査)
1)コンセッション実施は何が目的?
求めるのは、料金低下?、サービス向上?、それとも安全確保?
行政の作成する資料を見ると、住民を安心させたいためか、水道コンセッションによるメリットばかり謳われています。しかしながら、民間運営の効率化から生まれる費用削減額(VFM)は限られており、料金を下げ、更に安全性やサービス改善の投資を増やすことは無理でしょう。このため、得られた利益を何に活用するか明確化するべきです。
住民に費用削減分を返還し、「料金低下」を目的とすることが分かりやすいです。一方、被災の多い地域では、料金はそのままでもより高い「安全確保」を目指してほしいとの意見が多いかもしれません。また、水質が悪い地域では、おいしい水の提供といった「サービス向上」が期待されるでしょう。どちらにしろ、市民の意見を調査したうえで、何を重視するのかを明確化し、住民の理解を得る努力が必要です。
図 事業効率化で得られた資金の還元先(VFM200億円と想定)
業者選定基準や契約書案の仕様が、業務目的(住民の希望)と合致していないこともあり、実施前に検討・精査が必要です。
2)費用削減(VFM)の内訳を教えて
上で書いた「費用削減分」ですが、専門的にはVFM(Value For Money)と呼ばれ、PFIやコンセッション事業計画時に算出が義務付けられています。細かい説明は省きますが、事業期間中(例えば30年)の公的運営の合計費用から、民間運営の合計費用を引き、その差額がVFMとなります。
どの事業でもVFM額は示されますが、細かい内訳が分かりづらく、正確に評価できません。このため、VFM額を費用減の要因と、費用増の要因に分けて、細かく示すべきです。以下に1例として、VFM200億円の事業の要因別の金額を示します。
(A) 費用減少の要因・金額 -340億円
A-2) 人件費削減(職員数減、給与体系の改定)-40億円
A-3) 建設工事費の削減(柔軟な発注方法)-80億円
A-4) 配管への投資・更新費の削減(配管のAI分析などの高度技術利用)-80億円
(B) 費用増加の要因・金額 +140億円
B-2) 金融機関への返済利子増加分 +45億円
B-3) 運営企業の支払税金額(法人税等) +55億円
上記の「A費用減-340億円」+「B費用増+140億円」を足し合わせた結果、VFM(費用削減額)が200億になるという計算ですね。
3)県/市運営のままで業務改善できないの?(VFMの精査)
A-1) 広域化・事業統合による費用削減(給水や配水の最適化、施設の稼働率向上)-140億円
→これって、広域化による成果であって、民営化の成果とは言えないよね?(VFM-140億円)
A-2) 人件費削減(職員数減、給与体系の改定)-40億円
A-3) 建設工事費の削減(柔軟な発注方法)-80億円
→現状の運営が非効率ってこと?民間に任せなくても、自治体が業務改善すれば半分くらい改善できるでしょ?(VFM-60億円)
上の青字は、私の正直な意見です。広域化・事業統合は基本的に事業体間で調整し、実施することです。また稼働率の改善等はもともとの県/自治体の仕事であり、純粋な民間運営の成果ではないと思っています。従い、こういった検討・協議により、VFMは200億円から0円に減り(仮の数値ですが)、民営化(コンセッション)の経済的な優先性が減少します。
こういった、コンセッションをやるかやらないか、0か1ではない、細かい議論・評価が必要だと思います。
大事なインフラであれば、民営であろうと、公営であろうと、有能な人材が集まる水準の待遇で技術者なり経営者を集めないと、未来はありません。
返信削除コンセッション含む民間委託は、画一的な公務員人事給与体型を崩し、有能な技術者経営者に、他産業並みの年間2000万円払えますか?ということを問われており、つまり、人材の取り合いの側面が大きいのです。使命感だけではメシは食えず、公務員が2000万円もらうことも世論が許さないでしょう。
公営で!というのは簡単ですが、その覚悟があるのか?をもっと議論してほしいところです。
コメントありがとうございます。年収2000万円と聞くと、働く側の人間としては、確かに心が動きますね。もちろんそれだけの利益を生み出せる知見を有するという条件で。あと、国内の土木系技術者は、やりがいがあっても給与は低めの印象なので、その辺の意識改革・構造改革も期待しつつ。
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