はい、過去事例の分析結果より、水道分野の民営化(コンセッション)は他の分野と比べて失敗する割合が多いと言えます。
論文による研究結果ですが、中南米のコンセッション事業例約1000件を分析したところ、上下水道分野の失敗確率(大幅な契約変更が発生した確率)は、他分野平均よりも2.5倍ほど高くなりました。計量分析により、その原因を分析した結果、民間の投資義務や資金調達がある場合に失敗する確率が上がり、規制機関の能力が高いと逆に下がると分析されています。
※より良い論文などご存じでしたらコメントください。
1)上下水道コンセッションが失敗した割合
少し古いですが、Guash(2004年)は1985年から2000年にかけて中南米で実施された4分野(通信、電力、交通、上下水道)のコンセッション事業1000件の過去事例の研究を行い、論文をとりまとめました。
分析の結果、1000件中大幅な契約変更が行われた事例(失敗例)は全体で29.8%であり、そのうち上下水道分野の失敗割合が最も大きく74.4%(137案件中102件)となりました。事業開始から再契約までの期間も、4分野全体の平均2.2年に対し、上下水道分野は最も短期間の1.6年でした。
2)失敗の理由(要因分析)
事業が失敗した理由ですが、個別事例を分析するほか、多数のデータをもとに計量分析で求める方法があります。以下2つの論文結果をまとめますが、コンセッションが成功するには規制機関の能力向上と罰則強化などが効果があり、逆に民間の投資・資金調達が増えると失敗しやすいとの結果になっています。
Guash(2004)の論文では、水道分野を含むコンセッション事例942件に対し、計量分析により失敗(契約変更)の原因分析をしており、以下の条件で失敗が増減したと結論付けています。
失敗が増える条件:民間投資義務あり、民間資金調達あり、選挙あり、経済危機の発生、料金のPrice Capあり
失敗が減る条件:規制機関あり、政治の品質が高い、汚職頻度が低い
Estacheら(2009)の論文では、中南米8か国の交通分野(道路、鉄道)96案件の計量分析を行い、失敗の増減する条件を以下と分析しています。
失敗が増える条件:応札評価の条件が多い(契約が複雑化するため)
失敗が減る条件:規制機関の能力が高い、賄賂への罰則が高い
ここでは海外の論文をもとに原因などを整理しましたが、水道事業の特徴と、コンセッションによる難しさについては、「(1)水道事業の特徴、他の公共サービスとの違い」にまとめましたので参考にしてください。
参考資料
Granting and Renegotiating Infrastructure Concessions - Doing It Right - (Guash, J. L., 2004)
Multidimensionality and renegotiation: Evidence from Transport-sector public-private-partnership transactions in Latin America (Estache A., Guash, J. L., Iimi, A., and Trujillo L., 2009)
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