2023年4月11日火曜日

(4)宮城県の上下水道コンセッションー後編(2022年)

 (4)宮城県の上下水道コンセッションー前編(2022年)の続きです。

前編では事業概要や契約形態について述べましたが、ここでは企業選定の方法とモニタリング方法、個人的な意見を記載します。

5.企業の選定方法

企業の選定方法ですが、詳しく各種資料を見ると、県は「費用削減は県が試算した程度(現状と比べて約10%)で良く、その制約の中でできるだけ高度で安全なサービスを提案して欲しい」という依頼をしています。

企業選定の配点方法は以下の図のとおりです。合計200点のうち、配点の高い項目順に並べました。県の説明資料では、費用削減の効果が大きく述べられていますが、判断基準としては3番目で、配点は20%分となります。

1)水質管理・運営管理・保守点検:44点、22%
2)改築・修繕等:42点、21%
3)運営権者提案額:40点、20%
4)セルフモニタリング・危機管理・事業継続措置:34点、17%
5)全体事業方針・実施体制等:30点、15%
6)地域貢献:10点、5%

また、「運営権者提案額」の採点基準として、提案金額は県の試算金額より少なければ、どれも同一得点という方法が示されています(優先交渉権者選定基準)。

図1 業者選定の配点配分

実際に応札した企業グループは3グループあり、その結果は以下の図のとおりです(県資料の図に、青い四角を追記)。
A・B・Cグループがそれぞれ将来20年間にかかる費用を提案し、より少ない費用を提示した順に、B(1389億円)<A(1538億円)<C(1563億円)でしたが、3グループとも県の試算額1653億円より金額が小さいため、採点はB=A=C(最高の20点)となっています。従い、BグループとCグループの費用の差額174億円は、評価上は無視されました。
最終的な結果として、総合得点はC>B>Aの順になり、より高額な費用を提案していたCグループが最高得点を獲得して、運営権者として選定されました。

図2 選定結果

※事業費の妥当性については判断がつかず、分析していません

6.モニタリング方法

コンセッションは長期間に渡る契約であり、運営期間中の規制・モニタリングが非常に重要です。
本事業では図のとおり、①運営権者、②県、③経営審査委員会の3段階のモニタリングが実施されるとしています。

他国の事例などと比べて、この仕組みはそれほど特別なものとは感じません。
普通、コンセッション契約の中で、民間企業から規制機関(県)への定期的な情報提供が義務付けらますので、セルフモニタリングは当然の内容です。
また、マニラ上下水道コンセッション等でも、県に相当する規制機関(MWSS)の他に、フィリピン大学教授・法務/財務の専門家が分析・関与する体制が採られており、経営審査委員会と同様の効果を示しています。

図3 事業のモニタリング方法

私が驚いたのは、上の仕組みの外にある、市民団体「命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ」の活動です。
本事業の検討段階から運営が始まった現在まで、HPやYoutubeでの広報、担当者とのやり取りや県議会の記録公開、県へ質問状送付などを実施しています。独自で実施している活動として、大変な作業量です。
本団体から送られた質問状に対し、県も正式に回答しており、利用者・市民の立場で、事業の評価・モニタリングへの貢献が大変大きいと感じます。

7.個人的な感想

これまで整理した内容を受け、個人的な感想を書きます。

1)安全性を重視した契約形態

みやぎ上下水道コンセッションは、アフェルマージュ契約に近く、過去事例で問題の大きかった配管投資を県の役割とし、事業リスクを減らしています。業者選定基準も、費用削減より運営管理・安全性確保を重視しています。

個人的に、国内では水道事業に費用削減よりも安全確保を求める利用者が多いと推測するため、採用された契約形態・評価方法は良く練られた内容と感じています。

2)市民への説明不足

一方、水道コンセッション導入に関する、県から市民への説明は不十分であったと感じます。命の水を守る市民ネットワーク・みやぎは、事業検討時の住民説明会の回数や参加者の少なさを指摘しています。また、県が作成した説明資料は費用削減が大々的に謳われていますが、実際の企業選定では費用削減よりも運営管理や安全確保が重視されています。アフェルマージュに近く、一般的なコンセッションと異なる契約形態も十分に説明されていない印象です。

国内初の水道コンセッションであり、住民説明が難しかったことは容易に想像できますが、市民が十分に理解・納得していない状況で、将来的に問題が起こった場合、政治的な混乱を招き、事業が失敗に終わる可能性が残ります。

3)批判的な分析・チェックを行う重要性

最後に、県が設定した本事業のモニタリング・規制方法は一般的な仕組みです。注目するべき点は、その仕組みの外で市民団体が活躍し、市民の立場で批判的な指摘をしていることです。

県・公的機関は、これら反対する市民団体を排除するのではなく、社会的に有益な組織・活動として支援する仕組みを作り、共存していく体制を整えることが大切ではないでしょうか。水道事業に限らず、多くの公共事業で理想的な有るべき姿と考えます。

2023年4月10日月曜日

(4)宮城県の上下水道コンセッションー前編(2022年)

2022年4月から始まった、宮城県の上下水道コンセッションについて記載してみます。
正式な事業名は、「宮城県上工下水一体官民連携運営事業」です。
(図は宮城県作成の資料から抜粋しています)

まず、経緯、事業費用、事業概要、契約スキームを整理しました。
企業の選定方法、モニタリング方法、個人的な感想は次の回に記載予定です。

1.経緯

2014-2015:事業検討
2016-2017:検討会の開催、事業スキーム決定
2018:県の導入調整会議
2019-20:事業制度を検討、特定事業の選定、募集要項公表
2021:事業者選定(メタウォーターグループ)
2022:4月より「株式会社みずむすびマネジメントみやぎ」が運営開始

2.事業費用

以下、20年間の事業費総額と民間企業への発注金額です。
事業費総額:3,314億円
民間企業への発注金額:1,563億円(全体の47%、年78億円程度)
費用削減額(推計):-337億円(県運営の削減分50億円も含む)

3.事業概要

対象事業:複数事業をバンドリング
2つの水道用水供給事業、3つの工業用水道事業、4つの流域下水道事業をまとめて発注しています。
それぞれの規模ですが、契約書(案)に記載の水量(合計225,061㎥/年、令和4年)で見ると、水道用水供給事業が48%、工業用水道事業が14%、流域下水道事業が38%の割合となります。
複数の事業をまとめて発注することはバンドリング(Bundling)と呼ばれ、愛知県の道路コンセッションや、北海道の空港コンセッションでも用いられる手法です。
対象地域が重複する事業を選び、業務効率化により運営費用削減を目指したとのこと。

図1 事業区域

4.契約スキーム

事業形態はコンセッションとなっていますが、一般的なコンセッション契約と異なる特徴的な点を記載します。

(1)フランスのアフェルマージュ契約に近い条件(配管更新は公が実施)

県と民間企業の役割分担を、県の説明資料で示します。
水道用水供給事業は水源から浄水場まで。工業用水道事業は水源、浄水場、企業までの配管、流域下水道事業は下水処理場と放流です。

配管施設の多い青丸部分(追記)は対象となっていないことが分かります。

図2 事業別の対象施設(県資料に青丸を追記)

調査レポート(平成30年)でも、配管更新部分は県が実施することが明記されています(青丸を追記)。

表1 施設別の役割分担(県資料に青丸を追記)

一般的な水道のコンセッション事業では、浄水場や設備更新に加え、配管施設の管理・更新も民間企業が実施するため、宮城県の方式は、配管施設の管理・更新を公が実施する点が、本事業の特徴です。
水道事業の設備投資は約6割が配管に費やされますが、それを宮城県が実施するわけです。
従って、全体事業費を見ると、合計3,314億円のうち1,563億円(47%)分が民間の負担費用で、残りの1,751奥園(53%)は県の負担となり、県の役割が大きいことが分かります。

配管の更新を公が実施する形態は、フランスのアフェルマージュのスキームに近いものです。
水道事業の官民連携事業の中で、アフェルマージュは失敗事例が少ないことが知られていることから、リスクを抑えた契約形態と言えます。

アフェルマージュの契約形態については、以下を参照ください。


(2)料金徴収方法は企業から県に委託

通常のコンセッション事業では、民間企業が利用者から料金を徴収します。
本事業では、契約上は民間企業の役割としつつ、県に料金徴収を委託する形態を採用しており、この形態も特徴的です。
契約書(案)によると、委託費用は年288,000円で、契約額に比べると小さい金額です。

普通のコンセッションでは、民間企業がまず料金を収集するため、罰金等を徴収しにくいとの指摘が有ります。
本事業では県が料金を収集し、罰金等を天引きして民間企業に報酬を支払う形態となっており、比較的企業の運営を規制しやすい形態と言えます。