2021年3月27日土曜日

(6)ボリビア、ラパスの上下水道コンセッション

ここでは、私が2009年に研究で訪問した、ボリビア国の最大都市ラパス市の水道コンセッション事例を説明します。1997年から30年間のコンセッションが始まりましたが、契約終了を待たずに再公営化されました。再公営化された主な理由は政策転換です。

水道コンセッションの対象地域は標高3600m、事実上の首都ラパス市と近隣のエルアルト市であり、約150万人が生活する地域でした。

この事例では、以下の点で勉強になります。
(1)最大投資額(接続数)を提示した企業が落札
(2)事業規制・管理の難しさ
(3)コンセッションにより業務効率化したかどうかは不明

(写真:ラパス風景、標高4000m地点より









経緯

1997年以前:公共機関が水道サービス提供。給水率は高い(95%?)。平均使用量110リットル/日・人。漏水率34%。

1997年:フランスのSuez社資本であるAISA社が30年間のコンセッション契約を締結。入札基準は、2001年までにより多くのユーザー接続数増加を提案した企業を勝者とした(約71,000軒)。

2000年:同国第3の都市コチャバンバ市で水道民営化をめぐり水戦争が発生。低劣なサービスのままで急激な料金上昇が発生したことが主な原因とされた。4/4に17歳の男性が紛争中に射殺され、住民の抵抗が激化。政府は問題解決のため水道の再公営化を決定。

2002年~:ラパス市水道事業においても紛争による世論の影響を受け、2002年に計画されていた料金値上げが延期。

2007年~:10年間の民間運営後、住民不満の高まりもあり、新大統領であるエヴォ・モラレスが2007年にラパス市上下水道を再公営化することを決定。再公営化された主な理由は政府の政策転換。(政治リスクの顕在化)


(1)最大投資額(接続数)を提示した企業が落札
コンセッション契約先の決定条件は、「最低料金を提示した会社」となることが多かったのですが、ラパスは「最大接続数(投資額)」を提示した会社とされました。都市化による人口増が問題となっており、その対処がコンセッション契約の1番の目的とされていたためです。また、民間に任せるとお金持ち地域の開発が優先される恐れがあり、新規接続の半分は貧困地域と条件付けされていました。

(2)事業規制・管理の難しさ
事業期間の運営指標を細かく見ると、契約条件で厳しく規定された接続数は110万(1997)から160万(2008)と予定どおり増加しました。一方、大規模投資が必要である水源開発が進まず、1人あたり使用量は110リットル/日(1997)から80リットル/日(2008)に減少しました。このため水道サービスが改善したとは言い難いです。
企業からの視点では、予定されていた2002年の料金値上げが見送られ、大規模投資が難しいと判断したものと思います。

(3)業務効率化したかどうかは不明
コンセッション契約により、事業効率が改善したかどうかを分析しました。
収入額1.5~2.0億ボリビアーノに対し、明確な費用減としては、人件費-1.7%。それに対し、合計9.6%の追加費用がありました(コンサル費+2.2%、追加利子+2.5%、法人税+4.9%)。差分の7.9%以上の事業効率化があれば、民間運営がより効率性が高いと言えるのですが、投資単価などについてはデータが不十分であり判断できませんでした。

各種資料や業務指標を調べましたが、民間運営にしただけでサービスが改善するわけではなく、その規制・管理は難しいです。また民間運営は財務費用(利子、税金)が確実に増えるため、それを上回る業務効率化ができないと、逆に費用が増加し、業務効率性も悪化することも考えられ、国内でコンセッション事業を実施する場合にも重要な点です。

(写真:ラパスの街並、バス、親子)













0 件のコメント:

コメントを投稿