ここでは1997年に開始したマニラの上下水道コンセッションの事例を説明します。この事例は、以下の点で学ぶことが多いです。
(2)マニラッド社(西部)が1度破綻した
(3)いわゆるLow Balling(低価格入札と再交渉)が生じた
コンセッション契約の経緯
1997年以前:マニラ首都圏上下水道公社(MWSS)運営時は,対象地域の2/3のエリアに1日16時間しか給水できず
1997年:コンセッション開始。世銀・IFC主導で実施され、途上国としては大規模かつ先駆的な試み。競争性確保のため、事業地を東西に分け、別々に入札を実施。最も低価格の料金を入札した企業体が受注。落札金額は、既存料金のわずか26%(東地区、マニラウォーター)、57%(西地区、マニラッド)。
1997-2005年:1996-1997年のアジア経済危機などを経て、西地区のマニラッドが2001年より経営破たん状態。2005年に会社更生法を適用した後、運営会社交代のため再入札実施。
2005年~:料金値上げ、契約条件緩和により、両者の経営状態が改善。無収水率、下水道普及率等が改善。当初のLow Balling状況は解消され、以後順調な運営継続。東地区のマニラウォーターは2005年に株式上場を達成し、現在は他国事業にも参画。
マニラ上下水道コンセッションは、マニラ市の水道システムを東西に分けて別々の事業として開始されました。事業を2分することは、別のコンセッション事業でも実施されており、アルゼンチンのブエノスアイレス、フランスのパリ、インドネシアのジャカルタ等の例があります。分割の理由は、2つの事業の運営結果が比較され、切磋琢磨して事業が改善するためとされています。事業分割や入札方式についての詳しい経緯は、資料1に詳しく記載してあるので興味があれば読んでみてください。
2分するには追加的な工事(配水区域の断絶)、組織分割、契約・監査作業の倍増、といっコストがかかります。また比較による改善効果の可否も不明です。このため、個人的には敢えて実施しなくても良いのではないかと思っています。
(2)マニラッド社(西部)が経営破綻し、運営会社が交代
(3)いわゆるLow Balling(低価格入札と再交渉)が生じた
Low Ballingとは、民間企業の戦略の1つです。簡単に書くと、低価格入札においてまず低価格を提示し事業券を得たのち、事業を人質にとり、長期間に渡り規制機関と再交渉を行い契約条件を緩和し、収益性改善を狙う戦略です。
マニラッド社は経営破綻させましたが、そのまま事業運営ができなくなると社会生活に悪影響が大きいため、規制機関であるMWSSは料金値上げを容認しました。これにより、東西双方の経営状況は改善し、特に東部(マニラウォーター)は市場に上場し、また他国の事業参入なども実施しています。
以下は1997年から2011年の水道料金の推移。もともと10年間は料金改定しない契約で低価格を応札したが、結果的に1997年当時の料金(緑線)と比べて倍増した。
経営破綻があり、出資者などが損害を出していますが、結局は低価格入札とその後の再交渉による条件緩和が生じており、典型的なLow Ballingの戦略が実施され、企業の戦略はある程度成功したと言えます。なお最初の10年ほど期待していた投資が実施されなかったため、社会的な損害は大きいです。
上記、完結にまとめましたが、研究や仕事で関わり、また各種論文やレポートを読んで整理した内容です。マニラは日本からも近く、日本語でも色々な調査レポートが出ているため、興味があれば色々読んでみてください。
(写真:フィリピンのサリサリストア、マニラ西部の事業地域(shutterstock))
参考資料
1.The Manila Water Concession - A Key Government Official's Diary of the World's Largest Water Privatization (2000、世界銀行、事業形成から入札実施まで)
2.Maynilad on the Mend: Rebidding Process Infuses New Life to a Struggling Concessionaire (2009、アジア開発銀行、マニラッド社の破たんと再入札)
3. MWSS Regulatory Office (RO) 元の水道公社のMWSSが、コンセッション開始後、マニラの規制機関となっています。フィリピンでは自治体ごとに規制機関が形成されています。
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