水紛争(Guerra del Agua)とは、南米ボリビアで2000年に発生した、水道民営化に反対する市民運動です。水道民営化を反対する書籍で良く取り上げられている事件なので、知っている方も多いのではないでしょうか。
ボリビアは南米に位置し、海のない内陸国です。首都のラパスは3000m以上に位置し、ウユニ塩湖などが観光地として有名です。人口は1151万人、1人当たりGDPは3321USDで、南米でも開発の遅れた途上国です。(ボリビア基礎情報、外務省)
反対運動のストーリーとしては、欧米の水道民間会社が水道事業を民営化して、貧困国ボリビアの住民から莫大な利益を上げようとした。住民が国と企業に向けて反対運動を開始し、最終的に企業が撤退、水道は再公営化された。この経緯から、「水道民営化に反対する市民運動の成功例」とされています。しかし、本当に成功例と言ってよいのでしょうか?
1) ボリビア、コチャバンバ水紛争の経緯と問題点
水紛争の経緯は、以下のとおりです。民営化していたのは半年程度ということですね。
1999年10月:コンセッション契約により、SEMAPAからアグアス・デル・トゥナリ社に運営委託
2000年~:料金値上げが実施され、市民委員会、労働組合、学生団体等が民営化への反対運動を開始
2000年2-4月:反対運動が激化し、政府がデモ弾圧を行う中で学生が死亡。
2000年4月:政府は民営化をあきらめ再度公的機関による実施を決定。
Wikipediaにも詳しく整理されています→ Wikipedia コチャバンバ水紛争
コチャバンバ水道民営化の詳細を確認しましたが、契約に関する問題点は以下3点と認識しました。これらが改善していれば、水紛争は起こらなかったのではないかと思います。
・料金値上げの必要性が周知できていなかった
・貧困地域で料金値上げに対する反対が強かった(フルコストリカバリーは難しく、政府支援が必要だった)
2) 現地で見た真実
・料金は以前のまま低額
・抜本的な水源開発(ミシクニ・プロジェクト)は未着手
私は水道のエンジニアなので、水道事業の改善が最大の目標です。その実施主体が、公社でも、民営化された会社でも関係ありません。コチャバンバ市民は水紛争という理念の対立に勝利したものの、その後10年経っても低劣な水道サービスから抜け出せないでいました。
適切な水道民営化が実施されれば施設投資が進んだのではないか。世銀や日本の安いODA融資を活用することはできなかったのか。といったことが悔やまれます。
私はこの経験から、イデオロギーの対立(民営化の可否)を争うのではなく、本質的な公共事業の実施内容や効果について議論すべきであるという考えを持ちました。
日本でも民営化(コンセッション)導入・反対の議論が起きていますが、結果的にコチャバンバと同じ状況になることを懸念しています。市民の反対によりコンセッション導入を阻止できたとしても、水道事業の課題に関して建設的な議論ができなければ、将来的にサービス水準低下、安全性悪化、料金値上げといった結果に繋がってしまい、市民にとっては敗北を意味します。
(写真:コチャバンバの教会、街並み(shutterstock))
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