ここでは水道公社と民間企業の役割分担を説明します。
また業務分担と関連が深い、事業運営時のリスク分担についても説明します。
1.役割分担
まずコンセッション契約を委託する水道公社、それに業務を受託する民間企業の役割について以下に概要をまとめます。
下表が一般的にコンセッション契約でそれぞれの役割とされる事項です。
表 水道局と民間企業(コンセッショネア)の役割分担
民間企業(コンセッショネア)側の業務ですが、基本的に今まで公的機関が実施してきた水道サービス事業の大部分を実施することとなります。
(1,2):コンセッショネアに十分な水質・水量の処理水の継続的な供給が求められます。
(3, 4):民間企業は基本的に全ての既往・新規施設の建設・改修・維持管理を実施する。過去事例では水源開発や取水施設等の開発・維持管理は水道公社が実施する場合あり。
(5, 6):料金の回収を実施し、問合せや苦情へも対応します。
(7, 8):規制機関に対しては、コンセッションフィーと呼ばれる費用(既往債務返済,運営費等)の支払と、運営情報の報告を実施します。
2.リスク分担
上に記載した一般的なコンセッション契約の条件を元に、契約に関するリスク分担表を以下のとおり作成してみました。
コンセッショネアは水道事業に必要となる全体施設を受け持ち、新規施設の建設と、新規・旧施設の維持管理・補修を実施・管理します。また、料金徴収と資金調達・会計処理を担当し、これらの責任も有します。
公的機関が責任を有するリスクは、料金調整・改定の承認リスク、公的リスク、議会や他市との調整、また民間企業が責任を取ることができない自然災害等に限られます。
自然災害リスクについては、民間企業に予防・対策に関する費用削減の動機付けをするため、一部費用の負担を課す場合もあります。
表 水道局と民間企業(コンセッショネア)の役割分担
想定されるリスク | 公 | 民間 | 利用者 | コメント | |
1.需要リスク | 家庭利用者の需要変動リスク | ○ | 需要リスクは民間が管理する。 | ||
1人当たり水道使用量リスク | ○ | ||||
工業利用者変動リスク | ○ | ||||
2.原水確保~受水施設 | 原水の水量、水質の確保 | ○ | 水源が民間の範囲外の場合、公が責任を持つ。 | ||
原水購入費用の増加 | ○ | ||||
新規開発水源の開発 | △ | ○ | 民間が投資を実施。大規模の場合は公が補助金を検討。 | ||
新規開発水源の保全管理 | ○ | △ | 民間が管理するが、範囲外は公が他機関と調整。 | ||
設備の維持管理 | ○ | 民間が管理するが、範囲外は公が他機関と調整。 | |||
3.浄水施設 | 浄水施設等の計画・設計 | △ | ○ | 基本的に民間が管轄し、責任を持つ。将来の投資計画は公が管理する。 | |
施設の維持管理、浄水処理、排水・排泥処理 | ○ | ||||
保守及び修繕工事 | ○ | ||||
新規の浄水場建設 | △ | ○ | |||
4.水質検査(末端) | 水質試験及び試験(必要機器、薬品管理含む) | ○ | 基本的に民間が管轄し、責任を持つ。 | ||
水質悪化のリスク | ○ | ||||
5.配水施設 | 配水管新設・更新計画策定 | △ | ○ | 基本的に民間が管理。将来の投資計画は公が民の計画を精査する。 | |
配水管管理 | ○ | 基本的に民間が管轄し、責任を持つ。 | |||
工事設計・監理 | ○ | ||||
巡回点検・定期点検 | ○ | ||||
漏水事故対応 | ○ | ||||
漏水調査・補修 | ○ | ||||
水圧不足 | ○ | ||||
新規地域へのサービス提供遅延(普及率低減) | ○ | ||||
6.給水施設 | 給水管の管理 | ○ | △ | 民間が管理 | |
給水管の新規接続・修繕 | △ | ○ | 顧客が費用支払 | ||
顧客からの苦情対応 | ○ | 民間が対応 | |||
給水停止(停電を含む避けれれない理由) | ○ | 公が費用を負担 | |||
給水停止(民間企業の瑕疵による場合) | ○ | 民間の成果指標の1つ。罰則適用あり | |||
8.労務管理 | コンセッション開始前の公務員職員雇用 | ○ | 公が管理 | ||
事業期間中の処遇・待遇 | ○ | 契約書に雇用条件を規定 | |||
契約終了時の公務員職員の取り扱い | ○ | 公は終了後の職員を引き受けられる体制をとる | |||
9.施設の移管 | 既存施設の診断と評価 | ○ | △ | 施設情報の精緻化が必須 | |
既存施設の瑕疵責任 | ○ | 情報管理と提供 | |||
新規施設の瑕疵責任 | ○ | 民間が責任を有する | |||
10.情報管理 | 既存施設の情報整理・引き渡し | ○ | 公が管理 | ||
資産情報、O&M情報等の取扱 | ○ | 民間が管理し、契約後に引き渡し | |||
終了時の情報提供 | ○ | ||||
7.料金関連 | 料金設定根拠説明責任(対市) | ○ | 民間が市に説明を行う | ||
料金設定根拠説明責任(対利用者・議会) | ○ | 議会等へは市が実施する | |||
料金改定の承認 | ○ | 契約書の条件を厳守。承認されない場合の収入源は公が補てん。 | |||
検針・料金徴収 | ○ | 民間が管理 | |||
滞納整理 | ○ | ||||
未払利用者の閉栓・復旧 | ○ | ||||
11.経済リスク | インフレーション(人件費、電力費、薬品費、工事費等) | ○ | 料金調整の値上げに盛り込まれる | ||
受水費上昇 | ○ | 公が管理 | |||
原水購入費の上昇 | ○ | ||||
契約前の既往債権の返済 | ○ | ||||
為替変動 | ○ | 民間が管理 | |||
金融機関からの借入返済 | ○ | ||||
投資家への配当処理 | ○ | ||||
財務管理・会計報告 | ○ | ||||
12.許認可・既存契約・水道行政の方向性 | 水道事業認可 | ○ | 公が手続き実施 | ||
将来のマスタープラン策定 | △ | ○ | 5年毎の料金改定時に民が事業計画を作成・更新。公は内容を精査する。 | ||
周辺自治体および県との調整、連絡協議 | ○ | 公が他の公的機関と調整 | |||
13.政治リスク | 議会議決の遅延、および否決 | ○ | 基本的に公が損失分を負担する | ||
市民への説明責任、情報公開対応 | ○ | △ | |||
事業に直接的に関わる法制度変更 | ○ | ||||
事業に直接的に関わらない法制度変更 | ○ | 一般的な法律の変更については民間が責任を持つ | |||
14.不可抗力(地震・天災・渇水・テロ行為・その他外部侵入者によるもの) | 不可抗力(その他外部侵入者除く)による施設損壊 | ○ | △ | 損傷は公の費用で補修。動機づけのために民間が一部を負担。 | |
不可抗力時(その他外部侵入者除く)の給配水対応 | ○ | △ | |||
不可抗力時(その他外部侵入者除く)による料金徴収の不能 | △ | ○ | 基本は民間がリスクを保有する。一定額以上は公の負担を検討。 | ||
その他外部侵入者によるもの | ○ | 民間が管理。 | |||
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