2021年4月23日金曜日

(4)イギリスの水道民営化

ここでは、イギリスの水道民営化とPFIの経緯を整理してみます。

イギリスの水道民営化は1989年、サッチャー政権時に「小さな政府」を目指して実施されました。同時期に水道に限らず様々な分野で民営化がすすめられ、またインフラ事業への民間参入であるPFIも1992年以降に進められました。

水道民営化もPFIも実施から30年程経ち、その成果と副作用が分析され、最近は批判・見直しの動きが出てきています。民間運営は財務費用(配当、利子、役員報酬)が高いものの、公的運営と比べて効率化したかどうか不明であることが原因です。


1)水道民営化とPFIの経緯

1970~80年代「英国病」と呼ばれる公共サービス・財政悪化が進む
1973年:1600存在した上下水道事業体が、河川流域を元に全国で約10社に統合
1989年:サッチャー政権のもと、「小さな政府」「市場原理の尊重」を目指し、上下水道事業が民営化。電力・石油・ガス・電話/通信・空港等の産業も次々と民営化。
1992年:メージャー政権でPFI(Private Finance Initiative)が正式に導入。道路などのインフラ建設についても民間活用を進める施策。
2012年:PFIを改定し、より公的機関の参画を増やすPFI2が定義されるが、その後案件数は減少。
2018年~:PFI事業を実施してきたカリリオン社が破綻。PFIの成果に疑問を呈する世論が強まる。
~現在:現在の上下水道事業は計11社、水道事業計6社。OFWATが1989年より2019年まで6回のPrice Reviewを実施。

2)規制方法

イギリス水道の規制機関はOFWATが有名で、全国の水道事業の上下水道料金を規制しています。

OFWAT:1989年設立。水道料金・サービス水準を規制。5年ごとに各事業者の料金上限値を決定するPrice Reviewを、上下水道事業は計11社、水道事業計6社に対して実施。

DWI:水質を管理・モニタリング


3)政権交代による政策の変転(個人的な経験から)

イギリスには2008~2009年に1年間滞在しました。修士課程で民営化やPFIを勉強していたのですが、各クラスの講師が政策について自分の意見を述べることが新鮮でした。

大学院の「Project Finance」のクラスでは、PFI賛成派の男性講師がそのメリットを強調し、同じ日の「Public Management」のクラスでは逆にPFI反対派の女性講師が強く民営化を非難していました。

この状況で感じたのは、信頼できる情報をもとに、政策の議論をすることの重要性です。最近の民営化やPFIへの批判、パリでの再公営化などの動きは、こういった政策を議論する環境から作られていると感じます。日本の水道民営化についても、まず信頼できる情報共有、次にそれをオープンに議論する場の醸成が必要と考えます。


参考資料

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