2023年3月19日日曜日

(3)災害時の安全性の低下

国内の水道事業の課題の1つは、「安全性の低下」です。

水質の安全性を思い浮かべる方もいると思いますが、日本では適切な水質管理と塩素消毒が義務づけられており、健康被害が出る可能性はほとんどありません。今後課題となるのは、地震や洪水といった災害時の安全性低下です。
以下に過去の災害被害と復旧過程を整理しますが、断水の原因のひとつは老朽化施設の損傷です。老朽化施設の更新には多大な費用がかかり、今後対応が遅れ、「安全性の低下」が懸念されています。

1.過去の断水被害
水道行政の最近の動向等について(厚生省、2021年)」をもとに、過去の大きな地震災害と洪水災害による断水戸数と断水日数を示します。

1)地震災害による断水戸数・期間
・熊本自身 2016年 45万戸 約105日
・東日本大震災 2011年 257万戸 約150日
・阪神・淡路大震災 1995年 130万戸 約90日

2)洪水災害による断水戸数・期間
・東日本台風(宮城、福島、茨城、栃木等) 2019年 約17万戸 33日
・房総半島台風(千葉、東京、静岡等) 2019年 約14万戸 17日
・豪雨(広島、愛媛、岡山等) 2018年 約26万戸 38日

地震災害の断水戸数は40~260万戸、断水期間も90~150日と規模の大きいことが分かります。洪水被害の断水戸数は10~30万程度と少な目ですが、気候変動の影響か発生頻度が増えている印象があり、今後も注意が必要です。


2.東日本大震災の被害復旧状況
上記のうち、東日本大震災の規模・断水期間が最も大きいため、「東日本大震災水道施設被害状況調査最終報告書(厚生省、2013)」をもとに、被害復旧状況をまとめます。
以下は、地震発生後の時間経過と断水戸数のグラフです。


時間経過と実施内容を整理します。

1)発生後数日~1週間
断水戸数は災害発生直後180万戸にも及びましたが、1週間で半分程度に減少しています。
災害が発生した直後、住民は数日分の飲み水しか確保していないことも多く、断水した避難所や居住地域に給水車で緊急することになります。給水車は周辺の水道事業体から提供され、浄水場のタンクや利用できる井戸から給水されます。
また、東日本大震災の断水の1/3程度は、停電が理由で発生したそうです。故障した自家発電装置の修理、燃料供給などで、比較的早く復旧されたそうです。
各事業体の対策室が設置され、被災情報の収集、給水車・設備・人員などの適宜配置、復旧計画の策定などが進められます。

2)1週間後~1か月後
断水戸数は2週間後に最大値(180万戸)の2割、1ヶ月に1割程度に減少しています。
施設の損傷状況など確認した後、重要な箇所から補修が進められて行きます。

3.東日本大震災の支援活動・被害額、課題点
復旧のために費やされた支援活動と、被害額を以下に示します。

1)支援活動
全国の水道事業者から多大な支援活動が提供されており、合計で給水車14,000車・日、作業員延べ40,000人・日、職員派遣延べ12,000人・日、水道工事業者も52,000人・日が提供されました。これら周辺事業体からの支援体制の拡充、マニュアルの整備などが求められています。

2)施設別の被害額
国への補助金申請データによると、施設の被害額は合計301億円で、そのうち浄水施設が109億円(37%)、配水施設が112億円(36%)。被害が多かった施設は、浄水施設は旧耐震基準(1979年以前)の施設、配水施設は敷設年度が古い硬質塩化ビニル管(TS継手)と判明しています。被害を抑制するには、これら老朽化した施設を計画的に更新することが必要です。

3)対策と課題
東日本大震災では献身的な人的・財務的支援により復旧が実施されたわけですが、事前に予防的な施設更新が実施されていれば、これら被害はもっと抑えられた可能性が有ります。
国内水道事業は、人口減少や施設老朽化により収益性が悪化すると指摘されており、適切な耐震化・施設更新ができない場合、結果として災害時の安全性が低下することが懸念されます。

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