このブログに書き溜めた内容を元に、書籍「よくわかる水道民営化」を発売することができました。
市民の方々が、水道民営化の知識を深めることができれば幸いです。
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大学の教授、応援してくれた友人達に深く感謝いたします。
書籍の感想、質問など有りましたら、コメントお願い致します。
(説明や数値など修正・推敲しましたので、元の記事は非開示とさせて頂きました)
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国内では既に道路、下水道、空港などの分野でコンセッションが契約・実施されています。
・内閣府資料(2020年4月時点の案件数、PDF)
コンセッション契約の入札基準や契約条件について整理し、水道コンセッションと異なる点および類似点を明確化します。
現在(2021年10月)、フィリピンのマニラ出張中です。せっかくなので、コンセッションが行われているマニラ上下水道事業の状況を整理してみます。
水質や料金徴収は適切に運営・管理されている印象でしたが、下水配管の損傷事故を見つけました。老朽管の更新は費用が高く、日本でも問題となっており、民間企業に任せるか否か、その場合どう管理していくのかを検討する必要が有ります。
1.良好な水道水質
写真(左)はホテルの蛇口から汲んだ水道水です。見た目きれいで、変な匂いも無く、東京の水道水とも変わらない印象です。途上国のコンセッションで水質に問題が生じる事例は少なく、マニラでも同様です。
ホテルには飲用のボトルも設置されていました(写真右)。途上国では水質が悪い地域も多く、飲用水の配布ビジネスが成立しています。
写真:蛇口からの水(左)、ホテルの飲料水ボトル(右)
2.整備された給水メーター
滞在ホテルの近所で家庭・店舗用の給水メーターの写真を撮りました。盤面も綺麗ですし、ゲージで囲まれたメーターもあります。仕事でアジア、アフリカ、中南米と回りましたが、途上国でこれだけ整備された給水メーターを見ることは有りません。
コンセッション契約では水道料金が直接民間企業の収入となるため、メーターの設置/整備が良好に保たれます。これはコンセッション導入のメリットのひとつで、水道事業の財務安定性に寄与します。
3.課題の残る下水管整備・更新
職場近くで、下水管・マンホールの損傷による、道路冠水箇所を見つけました。ホテルやオフィスの並ぶエリアですが、道路横断も困難で、臭いも生じていました。1週間後も工事は終わらず同じ状況でした。
上下水道事業は配管施設の占める費用が大きく、古い管の更新業務は後回しにされがちです。日本のコンセッションでも、配管整備・更新をどう管理していくかが課題となっています。
写真:下水管損傷による道路冠水(左)、補修工事用機械(右)
4.上下水道コンセッションの概要
フィリピンの首都マニラでは、1997年より地域を2分割し、別々の民間会社に上下水道の投資と運営を任せています。今回滞在したホテル・オフィスは、マニラ西側の上下水道を運営するマニラッド社の給水エリアでした。コンセッションの経緯や特徴は、以前の記事でも整理しているので、読んでみてください。
皆さんは水道事業へ適用される「コンセッション契約」の内容や手順をご存じでしょうか?
このブログでは、水道コンセッション契約の概要を「3.契約概要」に整理しました。ただ、専門的すぎて理解が難しいので、もっと簡単に知ってもらいたく、普通の生活で経験する事柄になぞらえて説明してみます。
実際に皆さんが経験したことがある契約というと、雇用契約、賃貸契約、ローン契約などが有ると思いますが、それよりも一般常識や社会ルールに則って実施される「結婚生活」が最も類似点が多いのではないかと思います。
結婚とコンセッション契約が似ていると感じる理由は以下のとおりです。
1)期間が長い:
結婚期間は添い遂げたとして50年程(男性初婚年齢31歳~平均寿命81歳)。水道コンセッションの契約期間は、当初25~30年で、更に契約延長される事例が多いです。
2)性格の違う2人の共同生活:
結婚生活は、性別も性格も異なる2人が生活を共にします。水道コンセッションは「社会厚生の最大化」を目的とする公と、「企業利益の最大化」を目指す企業が協働することになります。
3)離婚割合が高い:
日本の離婚割合はここ20年ほど、35%と高く推移しています。上下水道分野のコンセッション契約は、他分野に比べ当初の契約条件が変更された割合が多いです(通信、電力、交通と比べて失敗割合が2.5倍)。
結婚生活とコンセッション契約の手順の比較は以下です。
結婚生活:「出会・婚約」→「結婚生活」→「添い遂げる/離婚」
契約進捗:「業者選定」→「業務実施」→「契約の成功/破綻」
ここまで、水道コンセッション事業を結婚生活になぞらえて説明してきました。ここでは、結論として、結婚(水道コンセッション事業)を失敗しないための方策を示したいと思います。
1. 家族の調和を目指そう(官・民・市民のバランス確保)
結婚生活を円満に送るには、家族皆の満足度が大事です。夫の収入が増えた場合でも、誰かが独り占めしては不和が起こります。余裕ができた分は、夫婦、子供、親族で公平に活用しましょう。
水道コンセッションでは、目的の異なる多くの関係者が存在します。社会サービス向上を目指す市や県、利益確保を目指す民間企業、料金低下を期待する住民。事業実施により効率化が果たされたとして、その利益をどこかが独占したら、公平性が失われ、その事業は失敗します。このため、充分な情報開示とともに、公平に利益を共有できる仕組みづくりが重要です。
2. 夫婦喧嘩は客観的評価で解決(NPOや規制機関のチェックが重要)
夫婦間で不満をたまることも有ると思います。偏った考えで相手を批判しない様に、客観的な評価をしてくれる友人や親族を持つことが大切です。喧嘩が激化してしまった場合は、専門のカウンセラーや弁護士に相談相談することが解決の近道です。
水道コンセッションでは、当事者である公共機関と民間企業の他に、客観的な評価を実施できる団体の活動が重要と思います。現在民営化が進められている事業は、 NPOなどが県や市の動きを注視しています。市民はその活動を応援し、長期的な視点で関わっていくことが大事です。また、イギリスのOFWATの様に、国レベルで水道民営化の是非を管理・規制する専門機関創設の必要性も感じます。
※各国の規制機関の概要は別記事で整理しようと思います
3. 夫に頼りすぎず、共働きを目指したら?(アフェルマージュの活用)
収入減が1つだと倒産や病気への対処が難しく、結婚生活が安定しません。このため、夫婦で仕事も家事も分担し、共働きで稼いでいくことがお勧めです。高度成長期は専業主婦家庭が多かったですが、近年は共働きの家庭が増加傾向にあります(リンク1)。総収入も専業主婦世帯より共働き世帯の方が高いです(リンク2)。
海外の水道事業では、「大部分の業務を民間に任せるコンセッション」が多く導入されてきました。しかしながら、コンセッションは資金調達費用が高く、配管投資の管理が難しいというデメリットがあります。このため、失敗事例も多く、「官民で役割分担するアフェルマージュ」が見直されてきました(過去の記事)。アフェルマージュ方式は公共が配管施設の投資と運営を受け持つため、事業破綻のリスクを減らすと期待されます。
※みやぎコンセッション事業は公共が配管投資・管理を行っており、アフェルマージュ方式が採用されています。
コンセッション事業を結婚生活になぞらえて説明する試みですが、今回3つ目の記事となりました。「1.婚活期間(事業形成から契約まで)」の記事で、お見合い・婚約手続きを説明しました。続く「2.夢見た結婚生活(コンセッション事業の運営)」では、結婚生活でのルール・情報共有などを説明しました。
「1.」「2.」に成功し、思い描いた結婚生活が送れれば最高です。しかし今回は、結婚相手が家事をしてくれないとか、浮気が発覚するなど、結婚制度(コンセッション事業)がうまく行かない場合を説明したいと思います。
結婚生活のルールが有りますが、約束していた家事をさぼるとか、子供の面倒を見ずに遊びに行ってしまうなど、相手が約束違反をすることが有ります。これらの違反が加速したり継続した場合、相手に指摘して行動を改善してもらう必要があります。
水道コンセッションでは、日常的な運用指標(水量、水質、水圧等)や、定期的に計測する技術指標(漏水量、施設更新数等)が定められています。また、事故や災害時の断水時間等も記録されます。これらの指標が満たされない場合、公共機関は民間企業に警告を発し、企業は真摯に対応(改善計画提出、行動是正等)する必要があります。警告しても業務が改善されなかった場合、契約に従って罰金を課したり、公共が介入し対策費用をを民間に負わせることになります。
(参考)(5)水道事業の成果
・致命的なルール違反(早期契約解除)
浮気など、結婚生活で重大な違反があった場合、正式に離婚をし、民法に従って違反を犯した側から慰謝料を取ることも可能です。
水道コンセッションでは、契約の早期終了条件が設定されています。運営に重要な瑕疵が発生したり、コンセッションフィーが支払われない場合(民間側の違反)、公共が契約終了を申し出ます。一方、公共が保証すると決まっていた法的リスクが発現したり、政治的に契約が破棄された場合(公共側の違反)、民間が終了を申し出ます。どちらの場合も、契約違反した側が費用を支払う義務があります。政治的な再公営化された事例で、この補償金の多寡が問題になる場合もあります。
・意見の食い違い(調停・仲裁手続き)
相手の過失を責めて改善を促しても、相手が意見に納得しないことがあります。その場合、第三者に評価してもらうことが重要です。一般的には、まず仲のいい友人、信頼できる親族等に相談します。慰謝料や親権に関わるより深刻な状況であれば、家庭裁判所などを活用することになります。
公共と企業の協議ですが、相互の話し合いで解決することができれば、時間も費用も最も少なくなります。しかしながら、両者が同意できない場合、両者の選定した調停人により仲裁の作業を行います。それでも解決しない場合、協議は裁判所の調停手続きとなることが普通です。国によっては、国際調停となり、海外で実施され、判決まで数年かかることもあります。(みやぎコンセッションでは第一審は仙台地方裁判所と規定しています)
・無駄になる費用(契約破綻による社会的損失)
離婚の障害となるのは、それまでにかかった費用です。結婚紹介所に払った100万円、結婚式に平均360万円程(ゼクシィ、2020)かかっていますが、離婚したらこれが無駄になります。このため、誰でもできるだけ離婚は避けたいと考えます。引っ越しや再就職等、金銭に換算できない労力も増えます。
水道コンセッションでも、運営方法移行に伴う各種費用が、再公営化の心理的な障害となります。事業開始時に、調査・契約作業に数千から数億の費用がかかっています(宮城県では計4億円以上)。一度コンセッションとなった事業を再公営化する場合ですが、一日でも公共サービスを止めることはできないため、事前に職員を採用したり、技術的な引継ぎも発生し、もともと不要であった費用が多く発生します。また、政治的な理由で契約期間中に再公営化された場合、契約違反として補償金がかかる場合もあります。
実質的な結婚生活の破たん?(コンセッションを人質にする企業)
社会的費用や社会的ステータス、子供がいるなど、なかなか離婚に踏み切れない夫婦も多いと思います。きつく注意できないのを良いことに好き放題する相手の場合、離婚していなくても、結婚は失敗だったと言えるのではないでしょうか。
同じことが水道コンセッションにも当てはまります。一度契約され、運営開始されると、水道事業はその地域で競合となる会社が存在せず、独占的なモノポリーとなります。公共としても多額の調査費用を出しており、再公営化に追加的な費用もかかるため、よほどの過失がない限り、契約期間である20~30年の事業が継続することになります。この期間中に企業に有利な契約変更・計画変更が行われることも多く、結果的に企業が不当な利益を手にします。当然、目的とした事業効率化や費用削減ができず、後から評価したら、公共のまま続けていた方が良かったとなる可能性が有ります。
ではどうしたら失敗を防げるのでしょうか・・・
結婚という社会的な仕組みに置き換えて、水道コンセッション契約を説明する試みですが、ここでは結婚後の結婚生活(事業契約と運営)を説明してみます。
- 結婚生活開始に際して -
・結婚生活の計画・目標設定(事業計画策定)
長い結婚生活のおおよその計画を立てて、二人でそれを目指します。数年内に子供を作り、5年以内に持ち家に引っ越したい。お金に余裕があれば高校から私立に入れる。退社後は田舎でゆっくり過ごしたい。といった感じでしょうか。
水道コンセッションでは、契約前に事業計画が策定され、それが守られることが原則です。事業期間中(20-30年)の出費である、運営費用、設備投資、更新費なども予測値が決められています。
・結婚生活の役割分担(業務の割振)
結婚生活の役割分担についても決めます。2人の勤務体系や希望によって、妻が専業主婦か、共働きするのか、今の時代夫が専業主夫でも問題はありません。
・2人の目的を一致させる(経済合理性を考慮した契約設計)
夫婦2人は価値感が違うので、生活のルール作りも必要になります。週末1日は夫婦一緒に過ごすとか、夕食は家族一緒にとるといった決まりが、夫婦円満に効果がありそうです。約束違反は罰金だとか、出世したらお小遣いUPなどのルールも、よい良い案かもしれません。
水道コンセッション事業では、公社と企業の目的は異なっています。公社の目標は「適正な水道サービスの提供」であり、対する民間企業の目的は「利益追求」です。2者の目標は異なるため、公社は契約において、企業が目的とする金銭的な利益を、社会的な利益と一致させる「経済的動機付け」と呼ばれる作業を行います。具体的には計画よりも漏水が減ったら報酬を出す、水質が規定より悪化したら罰金を課すといったルール作りで、契約期間中それを守らせます。
※実際には企業へ罰則を科すことは難しいのですが、それは別に記載します。
- 結婚生活中 -
・充分な情報共有(官民の情報交換)
夫婦は、日ごろから情報や将来の希望を共有しておくことが重要です。健康状態や会社の勤務状況、収入額などを必要なだけ共有しましょう。
公社は企業に長期目標を伝えます。民間企業は公社に毎月・毎年する書類が決められています。施設の運営データや水質・水量データは毎月提出、財務諸表や資産情報、建設図面等を毎年提出することが普通です。また契約期間中の財務・技術計画についても定期的に見直しを行います。
※交渉を有利に進めるため、企業は情報を隠す傾向が有り、詳細は別に記載します。
・定期的な生活設計修正(事業計画の定期的な修正)
長く生活していく中で、子供の数、両親の健康状態、労働環境などなど、色々な変化が生じます。その時々の状況に合わせて、夫婦の目標や計画を変更していきます。また自身の病気や失職などの危機的な状況が発生すれば、大幅な計画修正を余儀なくされます。
水道コンセッションでは、おおよそ5年ごとの計画変更が義務付けられています。住民の居住地域、サービス人口、配管の老朽度など、当初計画時に全ての条件を見通すことが不可能であることが、定期的な計画修正の理由です。この見直し作業は、1年程度の時間をかけ、官民間で複数回の協議と資料のやりとりが実施されます。また経済危機や災害など、事業運営に大きなインパクトを与える事象が生じた場合も、計画の見直しが実施されます。
結婚という社会的な仕組みに置き換えて、水道コンセッション契約を説明する試みですが、ここでは相手募集から婚約まで(事業形成から契約まで)を説明してみます。
性別は、仮に女性=公的機関、男性=民間企業、出会う方法は費用のかかる結婚紹介所とします。婚約または契約までの手順、期間、費用は、以下のとおりです。
B:水道コンセッションの場合(厚労省資料、12ページの一部)
例として、宮城県の水道コンセッションでは、事前調査と契約までの業務支援に4億円以上の費用がかかっています。